ポリ塩化ビニリデン

概要

項目内容
材料名ポリ塩化ビニリデン
略記号PVDC
IUPAC名(参考)Poly(1,1-dichloroethylene)
英語名Polyvinylidene Chloride
日本語名(別名)ポリ塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、俗称として「サラン」(Saran、ダウ・ケミカル社が起源の呼称)
分類汎用プラスチック(ガスバリア性フィルム用樹脂として特化した用途を持つ)
プラスチック分類汎用プラスチック(エンプラ・スーパーエンプラには該当しない)
化学式(繰返し単位)(C2H2Cl2)n ※式量:96.94 g/mol(繰返し単位あたり、代表値)
CAS No.9002-85-1(ホモポリマー、一般に知られている代表値)
構造・主成分塩化ビニリデン(VDC)を主モノマーとする付加重合体。実用グレードの多くは塩化ビニル(VC)やアクリル酸エステル、アクリロニトリル等を数%〜十数%共重合させた共重合体である(グレードにより異なる)
主な用途食品包装用ガスバリアフィルム(単層または他フィルムへのコーティング層)、業務用ラップフィルム、レトルト・ボイル用包材、医薬品包装、燻製用ケーシング等

ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は、塩化ビニリデンを主モノマーとする結晶性の熱可塑性樹脂であり、プラスチック材料の中でも極めて高い酸素バリア性・水蒸気バリア性・香気バリア性を有することを最大の特徴とする。この特異なバリア性は、分子構造上の高い結晶性と分子鎖の密な充填構造に由来するものであり、食品包装分野において長年にわたり中心的な役割を担ってきた材料である。

一般に、ホモポリマーは融点が高く熱分解温度に近接するため単独での溶融成形が難しく、実用グレードの大半は塩化ビニルやアクリル系モノマーとの共重合により融点を下げ、加工性を改善したグレードとして供給される。用途に応じて、フィルム単層として使用される場合と、ポリオレフィン系フィルムやポリエステルフィルムなどの基材にコーティング(塗工)してバリア層として利用される場合とがあり、後者の使用形態が実務上は多い(グレードにより異なる)。

熱的に不安定であり、加工温度・滞留時間の管理を誤ると脱塩化水素反応(HCl脱離)による着色・分解・金型腐食が生じやすいため、熱安定剤の配合設計と成形条件の管理が実用上の最重要課題となる。この点は設計者・成形加工者が特に留意すべき事項である。

特徴

長所プラスチック材料の中で最高水準の酸素バリア性・水蒸気バリア性を有する(一般に)/耐油性・耐薬品性が比較的良好/防湿性・防臭性に優れる/ヒートシール性を有するグレードがある/透明性が得られるグレードがある
短所熱安定性が低く、加工温度域が狭い(グレード依存)/熱分解時に塩化水素ガスを発生し、金型・機器の腐食要因となる/単独では加工が難しく共重合・配合設計が必要/耐候性(紫外線)は一般に十分でない(グレードにより異なる)/焼却時のハロゲン系ガス発生に配慮が必要
外観一般に半透明〜透明(グレード・厚さ・結晶化度により異なる)
耐熱性連続使用温度は一般に60〜80℃程度が目安(グレード依存、代表値)。加工温度域が融点と熱分解開始温度の間に限定される点に注意
耐薬品性一般に酸・アルカリ・多くの有機溶剤に対して比較的安定(詳細は後述の耐薬品性表を参照)。ただし高温・高濃度条件では低下する場合がある
加工性熱分解しやすいため、押出温度・滞留時間の厳密な管理と熱安定剤配合が必須(注意点)。単独樹脂としての射出成形は一般的でなく、フィルム・コーティング用途が中心
分類上の注意PVDCは塩化ビニル系樹脂であるポリ塩化ビニル(PVC)とは異なる材料である。名称が類似するため混同しないよう注意する。またPVDCは「サランラップ」等の商標・通称で呼ばれることがあるが、商品ごとの実際の樹脂組成はメーカー・時期により異なる場合がある(一般化しない)

構造式

ポリ塩化ビニリデン(PVDC)構造式

モノマー(構成単位)塩化ビニリデン(1,1-ジクロロエチレン、CH2=CCl2)
代表的な構造単位—(CH2—CCl2)n— の繰返し構造を主鎖とする
共重合体・変性グレード実用グレードの多くは塩化ビニル(VC)を数%〜30%程度共重合させたVDC-VC共重合体、またはアクリル酸メチル・アクリロニトリル等を共重合させたグレードが用いられる。共重合比率により融点・結晶化度・バリア性・加工温度域が大きく変化する(グレードにより異なる、代表傾向)

種類・代表グレード

グレード区分主成分・特徴長所短所主な用途
VDC-VC共重合グレード(フィルム用・汎用)塩化ビニリデンを主成分とし塩化ビニルを共重合。融点を下げ加工性を改善バリア性と加工性のバランスが良い耐熱性はやや低め食品包装用フィルム、業務用ラップ
VDC-アクリル系共重合グレード(コーティング用)アクリル酸エステル・アクリロニトリル等を共重合したラテックス形態が多い他フィルムへのコーティング適性が高い単独フィルムとしての強度はグレード依存OPP・PET・ナイロンフィルムへのバリアコート層
耐熱安定化グレード熱安定剤・加工助剤を強化配合成形時の熱分解・着色を抑制汎用グレードよりコスト高高温殺菌(レトルト・ボイル)対応包材
高バリアグレード結晶化度を高めた設計(詳細はメーカー技術資料による、グレード依存)酸素・水蒸気バリア性がさらに高い延伸・成形条件の管理がより厳密長期保存用食品包装、医薬品包装
ケーシング用グレードチューブ状成形に適した配合収縮性・ヒートシール性を付与耐熱性はグレード依存で要確認ソーセージ・ハム等の燻製用ケーシング

上記は代表的な区分の一例であり、実際の商品名・グレード名称・詳細な配合はメーカーごとに異なる。選定にあたっては各社技術資料(製品データシート)による確認を推奨する。

成形加工

加工方法適性備考
押出成形(フィルム・シート)○主要な成形方法。温度・滞留時間の管理が重要
Tダイフィルム成形○単層または多層(共押出)フィルムで実施例あり(グレード依存)
インフレーション成形△熱分解リスクが高く条件管理がより厳密に必要
コーティング(塗工)◎ラテックス形態を他基材フィルムへ塗工する用途が実務上最も多い
ブロー成形×一般に適用されない
射出成形×単独樹脂としての射出成形グレードは一般的でない
圧縮成形×一般に適用されない
真空成形△用途・グレードにより一部適用例あり(要確認)
切削加工×板・棒状素材としての流通は一般的でない
熱融着・ヒートシール○包材用途で多用。シール条件はグレード依存

◎:非常に適する ○:適する(条件確認が必要) △:条件により可能 ×:一般に不適または一般的でない

代表的な物性値又は機械的性質

以下は非強化・標準グレード(フィルム用途を想定した代表値)である。PVDCはガラス繊維強化・炭素繊維強化グレードが一般的でない材料であるため、強化グレードの比較データは「該当なし」とする。数値はグレード・共重合比率・延伸条件・試験規格により変動するため、代表値・目安として扱うこと。

項目単位代表値・代表範囲備考
密度g/cm31.60〜1.75共重合比率・結晶化度により変動(データ信頼度B)
引張強さ(フィルム、代表値)MPa40〜90延伸フィルムでは上限側、無延伸では下限側が目安(グレード依存、データ信頼度C)
引張破断伸び%20〜100延伸条件・厚さにより大きく変動
曲げ弾性率GPaデータなし(フィルム用途のため一般に評価されない)フィルム材料のため曲げ試験の一般データが乏しい
アイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)kJ/m2データなしフィルム形態が主であり、バルク材の衝撃試験データは一般化困難
荷重たわみ温度(HDT、0.45 MPa)℃データなし(一般化困難)フィルム材料のため一般的なHDT評価が乏しい
融点℃ホモポリマー:約185〜200(代表値、データ信頼度C)/共重合グレード:140〜175程度(グレードにより異なる)共重合比率により大きく低下する。文献間で数値の幅が大きく、推定値を含む
ガラス転移温度℃約-17〜-15(代表値、データ信頼度C)共重合組成により変動
連続使用温度℃60〜80程度(目安)用途・グレード依存。熱老化による強度低下・着色に留意
熱分解開始温度℃約200前後(代表値、データ信頼度C)融点と近接するため加工温度域が狭い点に注意
吸水率(24時間)%0.1未満(代表値)結晶性が高く吸水率は低い
体積抵抗率Ω・cm1014〜1016程度(代表値、データ信頼度C)電気用途としての利用は一般的でなく参考値
酸素透過度(代表値)cm3・20µm/(m2・day・atm) 等、試験条件依存プラスチックフィルム材料の中で最も低い水準(一般に)厚さ・湿度・温度条件により大きく変動するため、絶対値はメーカー資料での確認が必須。PVDCの最大の特徴である
水蒸気透過度(代表値)g/(m2・day) 等、試験条件依存同上、極めて低い水準(一般に)同上

ガラス繊維強化(GF)・炭素繊維強化(CF)グレードとの比較:該当なし。PVDCはフィルム・コーティング用途が中心であり、繊維強化グレードは一般に流通していない。

耐薬品性

薬品分類代表薬品評価備考
酸類(希薄・室温)希塩酸、希硫酸◎一般に安定。高濃度・高温では条件確認が必要
酸類(濃厚・高温)濃硫酸、濃硝酸△酸化性の強い酸では劣化のおそれ(グレード依存)
アルカリ類水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)○一般に良好。高濃度・高温では確認が必要
低級アルコール類エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)○一般に比較的安定
高級アルコール類グリセリン◎一般に安定
芳香族炭化水素類トルエン、キシレン△膨潤のおそれがある(条件により異なる)
脂肪族炭化水素類ヘキサン、油類○一般に比較的良好。耐油性は本材料の長所の一つ
ケトン類アセトン、MEK△グレードにより膨潤・軟化のおそれ
エステル類酢酸エチル△条件により影響を受ける場合がある
塩素系溶剤クロロホルム、ジクロロメタン×溶解・著しい膨潤のおそれが高い(SP値が近接するため)
水・温水水、温水(60℃程度まで)◎吸水率が低く加水分解のおそれも小さい
油脂類食用油、鉱物油◎耐油性は良好。食品包装用途での採用理由の一つ
SP値(溶解度パラメータ)

PVDCの溶解度パラメータ(δ)は、一般に δ ≈ 20〜25 MPa1/2 程度の範囲として報告される(文献により幅があり、代表値・目安として扱うこと。データ信頼度C〜D)。SP値はあくまで凝集エネルギー密度に基づく溶解性の目安であり、実際の耐薬品性は結晶化度、応力の有無、温度、接触時間、添加剤の影響等、SP値だけでは説明できない要因に大きく左右される。SP値の近接する溶剤(特に塩素系溶剤)は溶解・膨潤のリスクが高いため注意が必要である。

溶解性の目安
SP値差溶解・膨潤の目安判定
0〜2膨潤・軟化しやすい×
2〜5条件により膨潤する△
5〜8短時間接触では比較的安定○
8以上溶解・膨潤しにくい◎
SP値から見た耐溶剤性
溶剤名溶剤SP値(MPa1/2、代表値)PVDCとのSP値差(目安)評価
ジクロロメタン約19.8小さい×(溶解・膨潤のおそれ大)
トルエン約18.2やや小さい△(膨潤に注意)
アセトン約19.9やや小さい〜中程度△(グレードにより異なる)
エタノール約26.0中程度〜大きい○
水約47.8大きい◎

※SP値差は代表的な文献値を用いた概算の目安であり、実測の耐薬品性データを優先すること。特に塩素系溶剤・一部のケトン類への浸漬が想定される用途では、実薬品浸漬試験による確認を強く推奨する。

製法

ポリ塩化ビニリデン(PVDC)製造工程

原料塩化ビニリデン(VDC)モノマーを主原料とし、塩化ビニルやアクリル系モノマー等を共重合成分として用いる(グレードにより異なる)
重合方法ラジカル開始剤を用いた懸濁重合または乳化重合による付加重合。乳化重合の場合はラテックス(水分散体)として得られ、コーティング用途にそのまま利用されることが多い
ペレット化・コンパウンド懸濁重合品は脱水・乾燥後にコンパウンド工程で熱安定剤・可塑剤・加工助剤を配合する。乳化重合品(ラテックス)はコンパウンド工程を経ずに塗工液として使用される場合がある
添加剤熱安定剤(脱塩化水素反応の抑制)、可塑剤、滑剤等が配合されることが一般的である。熱分解しやすい材料であるため、添加剤設計が製品品質に直結する(グレード依存)
代表的な反応式(付加重合、模式)n CH2=CCl2 (ラジカル開始剤、加熱下) → —(CH2—CCl2)n—
※上記は基本骨格を示す模式的な反応式であり、実際の工業生産では共重合モノマーとの共重合反応が主体である。代表的な反応経路の一例として示す

詳細な利用用途

食品包装食肉・ハム・ソーセージ用ケーシング、業務用ラップフィルム、レトルト・ボイル殺菌用包材、乾燥食品・調味料の防湿包装
医薬品錠剤PTP包装のバリアコート層、医薬品保存用フィルム(代表例)
電気・電子一般的な採用例は少ない(バリア性を活かした一部の防湿包装用途を除く)
機械部品該当なし(本材料はフィルム・コーティング用途が中心であり、構造部品用途は一般的でない)
建築・設備一般的な採用例は少ない
その他釣り糸(モノフィラメント)、農業用防湿資材の一部(代表例)

関連材料との比較

比較材料特徴PVDCとの違い
ポリ塩化ビニル(PVC)汎用性が高く可塑剤配合で軟質〜硬質まで幅広く展開PVDCの方がガスバリア性は著しく高いが、耐熱加工性はPVCの方が扱いやすい場合が多い
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)乾燥状態で非常に高い酸素バリア性を示す共重合樹脂EVOHは吸湿によりバリア性が大きく低下するのに対し、PVDCは湿度依存性が小さい(一般に)
低密度ポリエチレン(LDPE)汎用フィルム用樹脂。水蒸気バリア性は良好だが酸素バリア性は低いPVDCは酸素バリア性でLDPEを大きく上回るが、単独での機械強度・耐衝撃性はLDPEが優れる
二軸延伸ポリプロピレン(OPP)透明性・コストバランスに優れる汎用フィルム基材OPP単独ではバリア性が不足するため、PVDCコーティングにより複合フィルムとして用いられることが多い
ポリエチレンテレフタレート(PET)強度・透明性・耐熱性に優れる汎用フィルム基材PETフィルムもPVDCコーティングによりバリア性を付与して使用される代表的な組み合わせ
アルミ蒸着フィルム金属蒸着によりPVDCを上回るバリア性を実現アルミ蒸着はバリア性で優るが不透明・電子レンジ不可であり、PVDCは透明性・電子レンジ適性の点で有利(用途による)

代表的なメーカー

メーカー代表製品・ブランド概要
株式会社クレハ(Kureha Corporation)クレハロン(Krehalon)等のPVDC樹脂・フィルム国内におけるPVDC樹脂・フィルムの代表的メーカーの一つ。食品包装用バリアフィルム分野で実績を持つ(代表例)
旭化成ホームプロダクツ株式会社サランラップ家庭用ラップフィルムの代表的ブランド。原料樹脂の組成・仕様は時期により変更されている可能性があるため、最新の製品仕様はメーカー公表情報の確認を推奨する

上記は本文執筆時点で確認できた代表的な企業例であり、記載のない企業がPVDC関連製品を扱っていないことを意味しない。具体的な採用検討にあたっては、各社の最新の製品情報・技術資料を直接確認することを推奨する。

関連キーワード

※実使用にあたっては、グレード、温度、濃度、荷重、応力、湿度、接触時間、成形条件等の詳細を各メーカーの技術資料・安全データシート(SDS)で確認し、必要に応じて実薬品浸漬試験・実成形試験・耐久試験等により最終確認を行うことを推奨する。

タイトルとURLをコピーしました