概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ポリエーテルエーテルケトン |
| 略記号 | PEEK |
| IUPAC | poly(oxy-1,4-phenylene-oxy-1,4-phenylene-carbonyl-1,4-phenylene) |
| 英語名 | Polyether Ether Ketone / Poly(ether ether ketone) |
| 日本語名 | ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、PEEK樹脂 |
| 分類 | 芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、PAEK系樹脂 |
| プラスチック分類 | スーパーエンジニアリング・プラスチック、結晶性熱可塑性樹脂 |
| 化学式または代表構造 | 繰り返し単位:[-O-C6H4-O-C6H4-CO-C6H4-]n |
| CAS No. | 29658-26-2(ポリマーとしての代表例) |
| 構造・主成分 | 芳香族環、エーテル結合、ケトン結合を主骨格に持つ半結晶性高耐熱ポリマー |
| 主な用途 | 航空宇宙部品、自動車部品、半導体製造治具、医療部品、食品機械部品、軸受、ギア、シール、チューブ、電線被覆 |
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、芳香族環、エーテル結合、ケトン結合を規則的に持つ結晶性スーパーエンジニアリング・プラスチックである。一般に、融点は約343℃、ガラス転移温度は約143℃であり、高温下での機械強度、耐薬品性、耐摩耗性、難燃性、耐加水分解性、電気特性のバランスが非常に良い材料である。
PEEKは、金属代替、PPSより高い耐熱性が必要な部品、PEIより耐薬品性や耐疲労性が必要な部品、PIやPAIより熱可塑成形性を重視する部品に使用される。未強化グレードのほか、GF強化、CF強化、摺動グレード、医療用グレード、食品接触対応グレード、難燃グレードなどがある。
一方で、PEEKは高価であり、成形温度が高く、乾燥、金型温度、滞留時間、結晶化度の管理が重要である。実使用では、グレード、結晶化度、温度、薬品濃度、接触時間、荷重、応力、摺動条件、滅菌条件、法規制適合性を確認して選定する必要がある。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、耐摩耗性、耐疲労性、難燃性、低アウトガス性、寸法安定性、電気絶縁性に優れる。 |
| 短所 | 材料価格が高い。成形温度が高い。高温金型が必要である。強酸化性酸、濃硫酸、ハロゲン化条件などでは劣化・溶解・変色する場合がある。 |
| 外観 | 自然色は淡褐色から灰褐色系の不透明または半透明。GF・CF強化品、黒色グレード、摺動グレードでは外観が異なる。 |
| 耐熱性 | 融点は約343℃、Tgは約143℃である。連続使用温度はグレードや規格により異なるが、一般に約240~260℃程度の高水準で使用される。 |
| 耐薬品性 | 多くの酸、アルカリ、油、燃料、炭化水素、アルコール、熱水、蒸気に対して安定である。ただし濃硫酸、発煙硫酸、濃硝酸、強酸化剤、特定の高温ハロゲン化溶剤では注意が必要である。 |
| 加工性 | 射出成形、押出成形、圧縮成形、切削加工が可能である。高温成形が必要であり、シリンダー温度、金型温度、乾燥、結晶化制御が重要である。 |
| 分類上の注意 | PEEKはPAEK系樹脂の一種である。PEK、PEKK、PEKEKKなどの芳香族ポリエーテルケトン類と近いが、融点、結晶化速度、成形性、靭性、耐熱性は同一ではない。 |
| 難燃性 | 一般に自己消火性が高く、未強化でもUL94 V-0相当のグレードがある。酸素指数は高めであるが、厚み、添加剤、強化材、認証グレードにより確認が必要である。 |
| 法規制 | RoHS、REACH、食品接触、FDA、USP Class VI、ISO 10993などへの適合は、材料一般名ではなく個別グレード、着色材、添加剤、製造ロットで確認する必要がある。 |
| 注意点 | 熱劣化、結晶化不足、成形時の滞留分解、残留応力、薬品中応力割れ、摩耗粉、アウトガス、滅菌後の物性変化を用途別に確認する必要がある。 |
構造式
PEEKの代表的な構造単位は、芳香族環をエーテル結合とケトン結合で連結した下記の繰り返し構造で表される。
−Ar−O−Ar−O−Ar−CO−を基本とするPAEK構造。構造中の官能基、結晶性、架橋密度、芳香族骨格、充填材の有無により、耐熱性、耐薬品性、機械的性質、成形性が変化する。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | [-O-C6H4-O-C6H4-CO-C6H4-]n |
| 構造の見方 | エーテル結合(-O-)が靭性と加工性に寄与し、ケトン結合(-CO-)と芳香族環が耐熱性、剛性、耐薬品性に寄与する。 |
| 構成単位 | 4,4′-ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノン類の縮合反応に由来する芳香族ポリエーテルケトン骨格が代表例である。 |
| 共重合体・変性グレード | PEEK単独ポリマーのほか、PAEK系としてPEK、PEKK、PEKEKKなどの類縁構造がある。実用材料ではGF、CF、PTFE、黒鉛、炭素繊維、鉱物、摺動改質材などを配合したコンパウンドが多い。 |
| 化学式の画像 | 画像タグは使用しない。構造式は白黒表示を想定し、本文内では代表構造をテキストで表記する。 |
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 未強化PEEK | PEEK単独ポリマーを主体とする標準グレード | 靭性、耐薬品性、電気特性、切削性のバランスが良い。 | GF・CF強化品に比べ剛性、HDT、寸法安定性は低い。 | 絶縁部品、チューブ、シール、切削部品、医療部品 |
| 高流動PEEK | 射出成形や薄肉成形向けに流動性を高めたグレード | 薄肉品、小型精密部品、複雑形状に適する。 | 標準グレードと比較して靭性や分子量設計が異なる場合がある。 | コネクタ、半導体部品、精密成形品 |
| 耐熱・高粘度PEEK | 押出、フィルム、チューブ、繊維などに用いられる高分子量系 | 溶融強度、靭性、押出安定性に優れる。 | 成形温度と加工負荷が高くなりやすい。 | チューブ、フィルム、ワイヤー被覆、モノフィラメント |
| GF強化PEEK | ガラス繊維を10~30%程度配合したグレードが代表的 | 剛性、HDT、寸法安定性、クリープ特性が向上する。 | 異方性、摩耗性、繊維露出、靭性低下に注意が必要である。 | 電気部品、機械部品、構造部品、ポンプ部品 |
| CF強化PEEK | 炭素繊維を10~30%程度配合した高剛性グレード | 高剛性、高強度、低線膨張、耐摩耗性に優れる。 | 導電性を持つ場合がある。成形異方性、工具摩耗、価格に注意する。 | 航空宇宙部品、ロボット部品、ギア、構造部品 |
| 摺動PEEK | PTFE、黒鉛、炭素繊維、二硫化モリブデンなどを配合したグレード | 摩擦係数、摩耗量、焼付き性が改善される。 | 相手材、荷重、速度、温度、潤滑条件により評価が大きく変わる。 | 軸受、ブッシュ、スラストワッシャ、シールリング、ギア |
| 食品接触対応PEEK | 食品機械、飲料設備、洗浄工程向けの適合確認済みグレード | 耐熱水性、耐蒸気性、耐洗浄薬品性が良い。 | FDA、EU食品接触、日本の食品衛生法などは個別グレードで確認が必要である。 | 食品機械部品、充填機部品、バルブ、ポンプ部品 |
| 医療用PEEK | インプラント、手術器具、滅菌対応用途向けの管理グレード | 生体適合性、X線透過性、滅菌耐性、軽量性が評価される。 | 医療用途では材料証明、トレーサビリティ、滅菌後特性、規格適合が必須である。 | 整形外科インプラント、歯科部品、手術器具、医療機器部品 |
代表グレード
| グレード区分 | 代表的な特徴 | 選定上の注意 |
|---|---|---|
| 汎用 | 未強化または標準流動タイプ。機械特性、耐薬品性、電気特性のバランスが良い。 | 高荷重、高温連続荷重ではクリープ、変形、結晶化度を確認する。 |
| 耐熱 | 高分子量、安定化設計、強化材配合などにより高温特性を重視する。 | 連続使用温度は規格、荷重、雰囲気、酸化条件で異なる。 |
| 難燃 | PEEK自体が難燃性を持ち、未強化でもV-0相当のグレードがある。 | UL94の厚み、色、添加剤、認証番号を確認する。 |
| GF強化 | ガラス繊維により剛性、HDT、寸法安定性を向上させる。 | 繊維配向、ウェルド強度、相手材摩耗、反りに注意する。 |
| CF強化 | 炭素繊維により高剛性、低線膨張、耐摩耗性を付与する。 | 導電性、成形収縮の異方性、加工工具摩耗を確認する。 |
| 摺動 | PTFE、黒鉛、炭素系材料により低摩擦・耐摩耗を狙う。 | PV値、相手材、潤滑有無、摩耗粉、食品接触可否を確認する。 |
| 食品接触 | 食品機械、飲料ライン、洗浄・蒸気滅菌環境に用いられる。 | FDA、EU、食品衛生法、色材、添加剤、洗浄剤耐性を確認する。 |
| 医療 | 医療機器、インプラント、手術器具向けに管理されたグレード。 | USP、ISO 10993、滅菌、ロット管理、長期埋植適合を個別に確認する。 |
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | PEEKの代表的な加工方法である。高温シリンダー、高温金型、十分な乾燥が必要である。 | 結晶化度、反り、ウェルド、滞留分解、金型温度不足に注意する。 |
| 押出成形 | ○ | チューブ、丸棒、板、フィルム、電線被覆などに使用される。 | 溶融粘度、冷却速度、結晶化、寸法安定性の管理が必要である。 |
| ブロー成形 | △ | 特殊用途で検討される場合があるが、一般的な汎用樹脂ほど広くない。 | 高温設備、溶融強度、コスト、肉厚安定性を確認する。 |
| 圧縮成形 | ○ | 大型ブロック、厚肉板、切削素材、特殊コンパウンドで使用される。 | 内部応力、ボイド、結晶化、冷却条件を管理する。 |
| 真空成形 | △ | シート成形で検討される場合がある。 | 結晶性樹脂であるため、加熱温度範囲、肉厚分布、成形後結晶化に注意する。 |
| 切削加工 | ◎ | 丸棒、板、チューブ素材から精密部品を加工できる。 | 残留応力、バリ、熱変形、繊維強化品の工具摩耗に注意する。 |
| 溶接・接合 | △ | 熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着、接着を検討できる。 | 結晶性、表面エネルギー、耐薬品性が高いため、接着は前処理や接着剤選定が重要である。 |
| 3Dプリント | △ | 高温FDMなどで使用される場合がある。 | ノズル温度、チャンバー温度、層間接着、結晶化度、反り、機械強度のばらつきを確認する。 |
成形条件
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 予備乾燥温度 | 150~160℃ | 2~4時間程度が目安である。吸湿量、保管状態、グレードにより調整する。 |
| シリンダー温度 | 360~400℃ | 未強化、GF、CF、流動グレードにより異なる。滞留分解に注意する。 |
| ノズル温度 | 370~400℃ | 低すぎると流動不良、高すぎると変色や分解の原因になる。 |
| 金型温度 | 160~200℃ | 結晶化度、表面状態、寸法安定性、耐薬品性に影響する。高性能用途では高めの金型温度が用いられる。 |
| 成形収縮率 | 未強化:約1.0~1.5%、 GF/CF強化:約0.2~0.8% | 流動方向、直角方向、繊維含有率、肉厚、金型温度で変化する。 |
| 後アニール | 用途により実施 | 結晶化度向上、残留応力低減、寸法安定化を目的に行う場合がある。 |
| 加工時の注意 | 高温設備が必要 | 一般的なエンプラ用成形機では温度不足になる場合がある。スクリュー、ノズル、金型温調、材料滞留を確認する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | 未強化PEEK | GF30%強化PEEK | CF30%強化PEEK | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 約1.30~1.32 | 約1.48~1.55 | 約1.38~1.45 | 充填材、結晶化度、着色材により変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 約90~100 | 約120~170 | 約180~250 | 繊維配向、試験片形状、温度により差が出る。 |
| 伸び | % | 約20~50 | 約2~5 | 約1~3 | 強化材配合で低下する傾向がある。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 約3.6~4.2 | 約8~12 | 約15~25 | 構造部品では温度依存性も確認する。 |
| アイゾット衝撃強さ | kJ/m2 | 約5~10 | 約6~12 | 約5~10 | ノッチ有無、試験法、繊維配向により異なる。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 約150~165 | 約300以上 | 約300以上 | 1.8MPa荷重の代表値。GF・CF強化で大きく向上する。 |
| 融点 | ℃ | 約343 | 約343 | 約343 | DSC条件や結晶化度によりわずかに変化する。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 約143 | 約143 | 約143 | Tg以上では弾性率低下を考慮する。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 約240~260 | 約240~260 | 約240~260 | UL RTI、荷重、雰囲気、酸化条件、寿命要求により確認する。 |
| 吸水率 | % | 約0.1~0.5 | 約0.1~0.4 | 約0.1~0.4 | PAより低いが、精密寸法用途では吸湿と乾燥状態を確認する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 約1016以上 | 約1014~1016 | 導電性を示す場合あり | CF、カーボン、帯電防止材の配合で大きく変化する。 |
| 酸素指数 | % | 約35前後 | グレードによる | グレードによる | 難燃性は高いが、認証は厚みとグレードで確認する。 |
| UL94 | 等級 | V-0相当グレードあり | V-0相当グレードあり | V-0相当グレードあり | 厚み、色、メーカー認証番号で確認する。 |
| 線膨張係数 | ×10-5/K | 約4~6 | 約2~4 | 約1~3 | 繊維配向方向で異方性がある。 |
耐薬品性
PEEKは一般に耐薬品性が非常に良い材料である。ただし、耐薬品性はSP値だけでなく、薬品濃度、温度、接触時間、応力、結晶化度、成形残留応力、充填材、表面状態に強く影響される。特に高温薬液、強酸化剤、濃硫酸、応力下の長期接触では、実液浸漬試験で確認する必要がある。
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 塩酸、酢酸、リン酸、希硫酸 | ◎~○ | 多くの酸に安定である。濃度、温度、酸化性の有無を確認する。 |
| 強酸化性酸 | 濃硫酸、発煙硫酸、濃硝酸、クロム酸混酸 | △~× | 溶解、膨潤、変色、酸化劣化の恐れがある。PEEKの弱点領域である。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、アンモニア水 | ◎~○ | 一般に耐性は良い。高温高濃度、長期接触、応力下では確認が必要である。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ◎ | 常温短時間では安定である。高温、圧力、応力下では確認する。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、MMB | ◎~○ | 一般に安定であるが、芳香族アルコールや高温条件では膨潤確認が望ましい。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | ◎~○ | 常温では良好である。高温長期では膨潤、応力割れを確認する。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット、灯油 | ◎ | 燃料、油系環境で安定性が高い。添加剤や混合燃料は別途確認する。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、航空燃料、アルコール混合燃料 | ◎~○ | 燃料成分、含酸素化合物、温度、圧力により評価する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | ◎~○ | 多くは安定であるが、高温や長時間接触では重量変化を確認する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エステル | ◎~○ | 一般に良好である。高温、混合溶剤、応力下では確認する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | ○~△ | 常温短時間では耐える場合があるが、膨潤、抽出、応力割れ、高温条件に注意する。 |
| 水・温水 | 水、温水、熱水 | ◎ | 耐加水分解性は良い。精密部品では吸水による寸法変化を確認する。 |
| 蒸気 | 飽和蒸気、オートクレーブ滅菌 | ◎~○ | 医療・食品用途で使用される。繰返し滅菌後の強度、色調、寸法を確認する。 |
| 油 | 鉱物油、潤滑油、作動油、シリコーン油 | ◎ | 油種、添加剤、酸化劣化油、高温条件では実液確認が望ましい。 |
| 洗浄剤 | アルカリ洗浄剤、界面活性剤、CIP洗浄液 | ◎~○ | pH、酸化剤、キレート剤、温度、洗浄サイクルを確認する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| PEEKの代表的なSP値 | 約22~24 MPa1/2程度 |
| 目安値 | 本ページでは代表値として23 MPa1/2を用いる。 |
| 注意点 | PEEKは結晶性が高く、芳香族剛直骨格を持つため、SP値差が小さい溶剤でも必ず溶解するとは限らない。結晶化度、温度、圧力、応力、分子量、薬品の酸化性、拡散性を考慮する必要がある。 |
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0 ~ 2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2 ~ 5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5 ~ 8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下は、PEEKのSP値を23 MPa1/2と仮定した場合の簡易評価である。PEEKは結晶性スーパーエンプラであり、SP値差だけで耐薬品性を判断することはできない。実際の耐性は、温度、濃度、接触時間、成形残留応力、結晶化度、薬品の酸化性、混合溶剤の組成により変化する。
| 薬品名 | 代表SP値 MPa1/2 | PEEKとの差 | SP値からの目安 | 実務上の評価 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 | 約24.9 | ◎ | ◎:吸水は小さいが、精密寸法では確認する。 |
| メタノール | 約29.7 | 約6.7 | ○ | ◎~○:常温では一般に良好である。 |
| エタノール | 約26.0 | 約3.0 | △ | ◎~○:SP値差は近いが、PEEKは結晶性が高く一般に安定である。 |
| IPA | 約23.5 | 約0.5 | × | ◎~○:SP値のみでは過小評価になりやすい。高温長期では確認する。 |
| アセトン | 約20.0 | 約3.0 | △ | ◎~○:常温では比較的良好である。 |
| MEK | 約19.0 | 約4.0 | △ | ◎~○:長期浸漬や高温では確認する。 |
| 酢酸エチル | 約18.6 | 約4.4 | △ | ○:高温、応力下、混合溶剤では確認する。 |
| トルエン | 約18.2 | 約4.8 | △ | ○:常温短時間では良好な場合が多い。 |
| キシレン | 約18.0 | 約5.0 | ○ | ○:高温長期では膨潤を確認する。 |
| ヘキサン | 約14.9 | 約8.1 | ◎ | ◎:脂肪族炭化水素には一般に安定である。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約2.8 | △ | ○~△:高拡散性のため、膨潤や応力割れを確認する。 |
| クロロホルム | 約18.7 | 約4.3 | △ | ○~△:長期接触、高温、応力下では注意する。 |
| NMP | 約23.0 | 約0.0 | × | △:高温条件では影響が出る可能性がある。常温短時間だけで判断しない。 |
| DMF | 約24.8 | 約1.8 | × | △:極性溶剤であり、高温長期では確認が必要である。 |
| 濃硫酸 | SP値評価不適 | 評価不可 | 評価不可 | ×:化学反応性・酸化性が支配的であり、SP値評価に適さない。 |
評価基準:◎非常に良好、○概ね良好、△注意が必要、×不適。SP値差による評価は、非反応性溶剤に対する簡易目安であり、酸・アルカリ・酸化剤・加水分解・応力割れ・添加剤抽出を含む実使用評価の代替にはならない。
製法
- 4,4′-ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンを極性溶媒であるジフェニルスルホン中、窒素下で180℃まで昇温する。
- 次に炭酸カリウムを添加して、ヒドロキノンをフェノラート化した後、320℃で重合を行う。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原料 | 代表例として、4,4′-ジフルオロベンゾフェノン、ヒドロキノン、炭酸カリウムなどが用いられる。 |
| 重合方法 | 高沸点極性溶媒中での芳香族求核置換重縮合により、芳香族ポリエーテルケトン骨格を形成する。 |
| 代表的な反応式 | n HO-C6H4-OH + n F-C6H4-CO-C6H4-F + n K2CO3 → [-O-C6H4-O-C6H4-CO-C6H4-]n + 2n KF + n CO2 + n H2O |
| ポリマー回収 | 重合後、塩類、副生成物、溶媒を除去し、洗浄、乾燥、粉砕または造粒を行う。 |
| ペレット化 | 押出機で溶融混練し、ペレット化する。分子量、粘度、結晶化挙動、揮発分を管理する。 |
| コンパウンド | GF、CF、PTFE、黒鉛、カーボン、鉱物、潤滑材、着色材、安定剤などを用途に応じて配合する。 |
| 品質管理 | 溶融粘度、融点、結晶化度、灰分、揮発分、金属不純物、機械物性、電気特性、法規制適合を確認する。 |
PEEKの製法では、高分子量化、末端基制御、金属不純物低減、熱安定性、成形時の揮発分低減が重要である。半導体、医療、食品接触、航空宇宙用途では、一般工業用途よりも不純物、抽出物、トレーサビリティ、ロット管理が厳しくなる。
詳細な利用用途
| 用途分野 | 代表用途 | 選定理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | ギア、シール、スラストワッシャ、ポンプ部品、電動化部品、燃料系部品 | 耐熱性、耐燃料性、耐摩耗性、軽量化、金属代替 | 燃料組成、潤滑条件、温度サイクル、PV値を確認する。 |
| 電気・電子 | コネクタ、絶縁部品、ボビン、センサー部品、電線被覆 | 高温電気特性、難燃性、寸法安定性、低アウトガス性 | CF配合品は導電性を持つ場合がある。絶縁用途ではグレード確認が必要である。 |
| 半導体 | ウェハー搬送部品、治具、洗浄装置部品、真空部品 | 耐薬品性、低アウトガス、寸法安定性、耐プラズマ性のバランス | 金属イオン、不純物、発塵、薬液、プラズマ条件を確認する。 |
| 機械部品 | 軸受、ブッシュ、ギア、シールリング、バルブシート、ローラー | 耐摩耗性、耐クリープ性、耐疲労性、高温強度 | 相手材、面圧、速度、温度、潤滑有無、摩耗粉を評価する。 |
| 医療 | インプラント、手術器具、歯科部品、内視鏡部品、滅菌トレー | 生体適合性、滅菌耐性、X線透過性、軽量性 | 医療グレード、ISO 10993、USP、滅菌回数、薬事要求を確認する。 |
| 食品機械 | 充填機部品、バルブ、ポンプ部品、シール、スクレーパー、ガイド | 耐熱水性、耐蒸気性、耐洗浄剤性、耐摩耗性 | 食品接触適合、洗浄剤、CIP、SIP、異物混入対策を確認する。 |
| 航空宇宙 | 構造部品、電線被覆、ブラケット、複合材マトリックス、内装部品 | 軽量、高耐熱、難燃、低発煙、耐薬品性 | 航空規格、難燃・発煙・毒性、長期疲労、トレーサビリティを確認する。 |
| 建築・設備 | 高温設備部品、耐薬品配管部品、バルブ、絶縁部品 | 高温、薬品、蒸気、摩耗環境に対応しやすい。 | コストが高いため、PPS、PTFE、金属、セラミックスとの比較が必要である。 |
| チューブ・フィルム | 分析装置チューブ、医療チューブ、電線被覆、耐熱フィルム | 耐薬品性、耐熱性、機械強度、低抽出性 | 押出グレード、肉厚、結晶化度、溶出物、曲げ疲労を確認する。 |
用途別選定
| 用途 | 推奨されやすいグレード | 重視する特性 | 確認試験 |
|---|---|---|---|
| ギア | CF強化、摺動PEEK | 耐摩耗性、疲労強度、寸法安定性、低騒音 | 実機耐久、PV試験、温度上昇、摩耗粉評価 |
| 軸受・ブッシュ | 摺動PEEK、CF/PTFE/黒鉛配合品 | 低摩擦、耐摩耗、耐熱、耐薬品 | PV限界、相手材摩耗、無潤滑・潤滑条件比較 |
| チューブ | 押出用未強化PEEK、高分子量PEEK | 耐薬品性、耐熱性、寸法安定性、低抽出性 | 耐圧、曲げ疲労、抽出物、薬液浸漬 |
| 筐体 | GF強化、難燃PEEK | 剛性、耐熱、難燃、寸法安定性 | HDT、UL94、熱サイクル、反り評価 |
| フィルム | 押出フィルム用PEEK | 耐熱、電気絶縁、耐薬品、機械強度 | 膜厚精度、絶縁破壊、熱収縮、折り曲げ試験 |
| コネクタ | 高流動GF強化PEEK、難燃PEEK | 薄肉流動性、耐熱、絶縁、寸法安定性 | リフロー耐熱、絶縁抵抗、ウェルド強度、端子圧入 |
| 医療部品 | 医療用PEEK、インプラント用PEEK | 生体適合性、滅菌耐性、トレーサビリティ | ISO 10993、滅菌サイクル、抽出物、機械強度保持 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | 対象材料との違い |
|---|---|---|
| ポリフェニレンサルファイド(PPS) | 耐薬品性、難燃性、寸法安定性に優れる結晶性スーパーエンプラである。 | PEEKの方が一般に靭性、耐摩耗性、高温強度、連続使用温度に優れるが、PPSの方が安価で成形しやすい場合が多い。 |
| ポリエーテルイミド(PEI) | 非晶性で透明性、寸法安定性、難燃性、耐熱性に優れる。 | PEEKは結晶性で耐薬品性、耐疲労性、耐摩耗性に優れる。PEIは透明性と成形収縮の小ささが利点である。 |
| ポリイミド(PI) | 極めて高い耐熱性を持つイミド系高耐熱樹脂である。 | PIは非溶融型や熱硬化型が多く、加工法が限定される場合がある。PEEKは熱可塑性で射出成形、押出成形、切削加工がしやすい。 |
| ポリアミドイミド(PAI) | 高温下の強度、耐摩耗性、クリープ特性に優れるイミド系樹脂である。 | PAIは高温機械特性が優れる場合があるが、吸湿や成形後処理に注意が必要である。PEEKは耐薬品性、耐加水分解性、熱可塑成形性に優れる。 |
| フッ素樹脂(PTFE、PFAなど) | 非常に優れた耐薬品性、低摩擦性、非粘着性を持つ。 | フッ素樹脂は耐薬品性と低摩擦性に優れるが、剛性、クリープ、機械強度ではPEEKが有利な場合が多い。 |
| ポリエーテルケトンケトン(PEKK) | PAEK系樹脂であり、ケトン結合比率や異性体比により融点、結晶化速度、耐熱性を調整できる。 | PEEKは実績と入手性が高い。PEKKは結晶化制御や積層造形、複合材用途で選ばれる場合がある。 |
| ポリスルホン系樹脂(PSU、PES、PPSU) | 透明性、耐熱水性、寸法安定性に優れる非晶性スーパーエンプラ群である。 | PEEKは結晶性で耐薬品性、耐摩耗性、高温強度に優れる。スルホン系は透明性や成形収縮の小ささで有利な場合がある。 |
| 金属材料 | 高剛性、高熱伝導、導電性、耐荷重性を持つ。 | PEEKは軽量、耐薬品、絶縁、低摩擦、非磁性、加工自由度で金属代替に使われる。ただし剛性、熱伝導、コストは用途別に比較が必要である。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| Victrex plc | VICTREX PEEK、APTIV film、PEEK-OPTIMA | PEEKおよびPAEK系高機能ポリマーの代表的メーカーである。工業、航空宇宙、医療、エネルギー、電子用途で実績が多い。 |
| Solvay | KetaSpire PEEK、AvaSpire PAEK | 高機能樹脂メーカーであり、PEEK、PAEK、PPSU、PEI関連材料などを展開している。日本法人経由での供給もある。 |
| Evonik Industries | VESTAKEEP | 工業用途および医療用途向けのPEEKを展開している。医療用グレード、インプラント用途向け材料の代表例がある。 |
| Ensinger | TECAPEEK | PEEKの丸棒、板、チューブ、切削素材、摺動グレード、医療用素材などを扱う加工素材メーカーである。 |
| Mitsubishi Chemical Advanced Materials | Ketron PEEK | PEEK素材、切削用素材、摺動グレード、工業用高機能樹脂素材を展開している。 |
| Röchling | SUSTAPEEK | PEEKを含む高機能樹脂の板材、丸棒、加工部品を展開する代表的メーカーである。 |
| Daicel-Evonik | VESTAKEEP関連製品の国内取扱い代表例 | 国内で高機能樹脂、医療向け材料、工業材料を扱う企業として知られる。取扱い範囲は時期と契約により確認が必要である。 |
法規制・規格上の注意
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 制限物質の含有有無 | 樹脂名ではなく、グレード、着色材、添加剤、ロットの証明書で確認する。 |
| REACH | SVHC、登録、用途制限 | 欧州向け製品では最新のSVHCリストとサプライヤー証明を確認する。 |
| 食品衛生 | 食品接触用途への適合 | 日本、EU、米国FDAなど地域により要求が異なる。グレード単位で確認する。 |
| FDA | 食品接触、医療関連の適合情報 | FDA適合は材料一般名だけでは判断できない。対象規則と使用条件を確認する。 |
| 医療用途 | USP Class VI、ISO 10993、滅菌耐性、トレーサビリティ | インプラント用途では医療グレード、長期埋植適合、製造変更管理が重要である。 |
| 難燃規格 | UL94、RTI、発煙性、毒性 | 厚み、色、強化材、認証番号により結果が異なる。 |
| アウトガス | 真空、半導体、宇宙用途での揮発分 | 低アウトガスグレード、洗浄、ベーキング、分析条件を確認する。 |
使用上の注意点
- PEEKは耐薬品性が高いが、濃硫酸、発煙硫酸、濃硝酸、強酸化剤、特定の高温ハロゲン化溶剤では劣化や溶解の恐れがある。
- 結晶化度が不足すると、耐薬品性、寸法安定性、耐熱性が十分に出ない場合がある。
- 射出成形では高温金型が必要であり、金型温度不足では表面状態、結晶化、収縮、反り、耐薬品性に影響する。
- 高温滞留により変色、分解、アウトガス、機械強度低下が起こる場合がある。
- GF・CF強化品は剛性が高い一方で、繊維配向による異方性、反り、ウェルド強度低下、相手材摩耗に注意する。
- 摺動用途では、カタログ値だけでなく、相手材、面圧、速度、温度、潤滑、摩耗粉、使用雰囲気を含めて評価する。
- 医療、食品、半導体、航空用途では、一般工業グレードではなく、用途に対応した認証・管理グレードを選定する。
- 吸水率は低いがゼロではないため、精密部品、電気部品、寸法公差の厳しい部品では保管状態と乾燥状態を確認する。
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