概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | ポリカーボネート |
| 略記号 | PC |
| IUPAC | poly[oxycarbonyloxy-1,4-phenyleneisopropylidene-1,4-phenylene]を基本とするビスフェノールA型ポリカーボネート |
| 英語名 | Polycarbonate、Bisphenol A Polycarbonate |
| 日本語名 | ポリカーボネート、ポリカーボネート樹脂、PC樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、非晶性樹脂、透明樹脂、芳香族ポリカーボネート |
| プラスチック分類 | エンジニアリング・プラスチックに分類される。透明性、耐衝撃性、耐熱性を併せ持つ代表的な透明エンプラである。 |
| 化学式または代表構造 | ビスフェノールA型PCの代表繰り返し単位:−O−CO−O−C6H4−C(CH3)2−C6H4− |
| CAS No. | 25037-45-0がビスフェノールA型ポリカーボネートの代表CAS No.として用いられる場合がある。 |
| 構造・主成分 | 主鎖中にカーボネート結合(−O−CO−O−)を持つ芳香族高分子であり、一般的にはビスフェノールAと炭酸誘導体から得られる。 |
| 主な用途 | 透明カバー、レンズ、照明部品、ヘルメット、防護板、電気電子部品、自動車部品、医療部品、食品機械部品、建材、シート、フィルム |
ポリカーボネート(PC)は、分子内にカーボネート結合を持つ熱可塑性エンジニアリング・プラスチックである。工業的にはビスフェノールA型の芳香族ポリカーボネートが広く用いられ、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、電気絶縁性のバランスに優れる。
透明樹脂の中では特に耐衝撃性が高く、ガラスやアクリル樹脂の代替として、防護カバー、透明板、光学部品、照明カバー、自動車ランプレンズ、電子機器筐体などに使用される。標準PCのほか、耐熱、難燃、耐候、光学、GF強化、摺動、食品接触、医療用途向けなど多様なグレードがある。
一方で、アルカリ、高温水蒸気、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤には注意が必要である。特に成形残留応力が大きい部品では、洗浄剤、接着剤、塗料、油剤、アルコール混合溶剤との接触により、白化、クラック、応力割れが発生する場合がある。実使用ではグレード、温度、濃度、荷重、応力、接触時間、成形履歴を確認する必要がある。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、電気絶縁性に優れる。低温でも衝撃強度を保持しやすく、難燃グレードや耐候グレードの選択肢も多い。 |
| 短所 | 耐薬品性は万能ではない。アルカリ、高温水、ケトン、エステル、芳香族溶剤、塩素系溶剤で劣化、膨潤、白化、応力割れが起こる場合がある。表面硬度はPMMAより低く、傷が付きやすい。 |
| 外観 | 無色透明が基本である。着色透明、不透明、拡散、遮光、耐候、光学、難燃、導光、摺動などのグレードがある。 |
| 耐熱性 | ガラス転移温度は約145〜150℃、荷重たわみ温度は標準グレードで約125〜140℃が目安である。連続使用温度は一般に100〜120℃程度が目安であるが、荷重、応力、グレードにより変化する。 |
| 耐薬品性 | 水、弱酸、一部のアルコール、油類には比較的安定な場合がある。一方、強アルカリ、高温水、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤には注意が必要である。 |
| 加工性 | 射出成形、押出成形、シート成形、ブロー成形、真空成形、切削加工に対応する。吸湿による加水分解を避けるため、成形前乾燥が重要である。 |
| 難燃性 | 標準グレードでも自己消火性を示す場合があるが、UL94 V-0などが必要な用途では難燃グレードを選定する。難燃剤の種類により透明性、耐熱性、耐加水分解性、成形安定性が変化する。 |
| 法規制 | RoHS、REACH、食品接触、FDA、医療用途、UL認証などはグレード単位で確認する必要がある。ビスフェノールAに関する規制や顧客要求が関係する用途では、用途別適合証明を確認する。 |
| 分類上の注意 | PCは非晶性エンプラであり、PBT、PET、PA、POMのような結晶性エンプラとは薬品耐性、成形収縮、寸法安定性、耐摩耗性の傾向が異なる。PC/ABS、PC/PBTなどのアロイは純PCとは別材料として扱う必要がある。 |
長所
- 透明性と耐衝撃性の両立に優れる。
- 標準グレードでも耐熱性が比較的高く、100℃前後の部品に採用しやすい。
- 寸法安定性、電気絶縁性、低温衝撃性が良好である。
- 射出成形、押出シート、フィルム、ブロー成形など加工方法の幅が広い。
- 難燃、耐候、光学、GF強化、摺動、医療、食品接触などのグレード展開が多い。
短所
- ケトン、エステル、芳香族炭化水素、塩素系溶剤で膨潤、白化、クラックが起こりやすい。
- アルカリや高温高湿条件ではカーボネート結合の加水分解に注意が必要である。
- 成形残留応力が大きいと、薬品接触時に応力割れを生じやすい。
- 表面硬度はアクリル樹脂より低く、擦傷対策としてハードコートが必要な場合がある。
- 屋外長期使用では紫外線による黄変、物性低下が起こる場合があり、耐候グレード又は表面処理が必要である。
構造式

ポリカーボネートは、主鎖中にカーボネート結合(−O−CO−O−)を持つ高分子である。 工業的に最も多く使用されるものは、ビスフェノールA由来の芳香族ポリカーボネートである。
芳香環を含む剛直な構造により、PCは高い耐衝撃性、透明性、耐熱性、寸法安定性を示す。 一方で、カーボネート結合はアルカリや高温高湿条件で加水分解を受けやすく、薬品接触や応力状態ではクラックが発
ビスフェノールA型ポリカーボネートの代表構造は次のように表記できる。
| 項目 | 構造・内容 |
|---|---|
| 代表的な構造単位 | −O−CO−O−C6H4−C(CH3)2−C6H4− |
| 官能基 | カーボネート結合:−O−CO−O− |
| 芳香族骨格 | ビスフェノールA由来の芳香族環を含む。剛直な芳香族骨格により、透明性、耐熱性、剛性が得られる。 |
| モノマーまたは構成単位 | ビスフェノールA、ホスゲン又はジフェニルカーボネートなどの炭酸誘導体が代表的である。 |
| 代表的な反応単位 | n HO−Ar−OH + n COCl2 → [−O−Ar−O−CO−]n + 2n HCl ArはビスフェノールA骨格を示す。 |
| 共重合体・変性グレード | 耐熱PC、シロキサン共重合PC、難燃PC、耐候PC、光学PC、PC/ABS、PC/PBT、GF強化PCなどがある。共重合成分、添加剤、強化材により透明性、耐熱性、耐衝撃性、難燃性、耐薬品性が変化する。 |
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 標準PC | ビスフェノールA型ポリカーボネート | 透明性、耐衝撃性、耐熱性、成形性のバランスが良い。 | 耐薬品性、耐候性、耐擦傷性には注意が必要である。 | 透明カバー、筐体、機械カバー、照明部品、一般成形品 |
| 耐熱PC | 高耐熱設計又は耐熱添加剤を用いたグレード | 標準PCより高温荷重下の変形を抑えやすい。 | 流動性、衝撃性、透明性が低下する場合がある。 | 電気電子部品、車載部品、照明部品、耐熱筐体 |
| 難燃PC | 難燃剤を配合しUL94 V-0などに対応するグレード | 電気電子部品や安全規格対応部品に使用しやすい。 | 添加剤により透明性、物性、耐加水分解性、成形安定性が変化する。 | 電源部品、コネクタ、OA機器、電気電子筐体 |
| 耐候PC | 紫外線吸収剤、耐候安定剤を配合したグレード | 屋外での黄変や物性低下を抑えやすい。 | 長期屋外では表面劣化、黄変、クラックの確認が必要である。 | 建材、屋外カバー、車両部品、照明カバー |
| 光学PC | 透明性、低異物、低複屈折、光学安定性を重視したグレード | レンズ、導光部品、光学成形品に適する。 | 成形条件、乾燥、金型温度、残留応力の影響を受けやすい。 | レンズ、導光板、光学カバー、センサー部品 |
| GF強化PC | ガラス繊維を配合した強化グレード | 剛性、寸法安定性、HDTが向上する。 | 透明性は失われる。異方性、反り、ウェルド強度、表面外観に注意が必要である。 | 機構部品、構造部品、電気電子部品、自動車部品 |
| 摺動PC | PTFE、シリコーン、潤滑剤などを配合したグレード | 摩擦係数、摩耗、きしみ音を改善できる場合がある。 | 強度、透明性、塗装性、接着性が低下する場合がある。 | ギア、スライダー、軸受、摺動ガイド、機構部品 |
| 食品接触・医療向けPC | 食品接触、医療、滅菌条件などを想定した管理グレード | 規格適合、溶出、衛生性、トレーサビリティを確認しやすい。 | グレード単位で規制適合が異なる。蒸気滅菌、高温水、洗浄剤での劣化確認が必要である。 | 医療部品、食品機械部品、透明容器、検査機器部品 |
| PC/ABS | PCとABSのポリマーアロイ | PCの耐熱性、耐衝撃性とABSの成形性、外観性を両立しやすい。 | 純PCより耐熱性、透明性、耐薬品性が低下する場合がある。 | 自動車内装、OA機器、電気電子筐体 |
| PC/PBT・PC/PET | PCと結晶性ポリエステルのアロイ | 耐薬品性、耐衝撃性、寸法安定性を調整しやすい。 | 加水分解、相分離、成形条件、外観に注意が必要である。 | 自動車外装、電装部品、機構部品 |
成形加工
PCは成形前乾燥が重要な材料である。吸湿状態で高温成形すると加水分解により分子量低下、銀条、気泡、物性低下、黄変が発生する場合がある。成形条件はグレード、肉厚、流動長、金型構造、難燃剤、強化材の有無により変化する。
| 加工方法 | 適性 | 主な製品例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ◎ | 筐体、透明カバー、レンズ、電気電子部品、自動車部品 | 乾燥、樹脂温度、金型温度、残留応力、ウェルド、ガス焼けに注意する。 |
| 押出成形 | ◎ | シート、フィルム、板材、チューブ、プロファイル | 厚み精度、異物、熱劣化、残留応力、冷却条件を管理する。 |
| ブロー成形 | ○ | ボトル、容器、透明中空品、ランプ部品 | 専用の高溶融強度グレードが必要な場合がある。 |
| 圧縮成形 | △ | 板材、厚肉部品、試験片 | 一般量産では射出・押出が中心であり、圧縮成形は限定的である。 |
| 真空成形・熱成形 | ○ | 透明カバー、トレー、保護カバー、建材シート | 予備乾燥、加熱ムラ、白化、残留応力、成形後の寸法安定性を確認する。 |
| 切削加工 | ○ | 試作部品、治具、透明窓、機械部品 | 切削熱、クラック、応力割れ、アルコール洗浄による白化に注意する。 |
| 接着・溶着 | △〜○ | 透明部品、ケース、カバー、複合部品 | 溶剤型接着剤ではクラックが起こりやすい。接着剤、プライマー、表面処理を確認する。 |
| 塗装・印刷 | ○ | 意匠部品、表示部品、外装部品 | 溶剤、洗浄剤、乾燥温度、塗膜収縮応力によるクラックを確認する。 |
代表的な成形条件
| 項目 | 代表条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 予備乾燥 | 110〜130℃ 3〜6時間程度 | 吸湿状態、ペレット水分、ホッパードライヤー性能により調整する。目安として水分率0.02%以下を狙う場合が多い。 |
| シリンダー温度 | 260〜320℃程度 | 高流動、難燃、GF強化、光学グレードで条件が異なる。過熱や滞留で黄変、ガス、分子量低下が起こる。 |
| 金型温度 | 70〜120℃程度 | 外観、転写性、残留応力、寸法安定性に影響する。光学部品では高めに設定する場合がある。 |
| 成形収縮率 | 0.5〜0.8%程度 | 非強化PCの代表値である。GF強化では流動方向と直角方向で異方性が生じる。 |
| 背圧・スクリュー回転 | 中〜低条件を基準 | せん断発熱、ガス、黄変、銀条を避けるため、過度なせん断を避ける。 |
| アニール | 100〜125℃程度 数時間 | 透明厚肉品や薬品接触部品では残留応力低減に有効な場合がある。ただし変形に注意する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
以下は代表値であり、メーカー、グレード、測定規格、試験片厚み、乾燥状態、成形条件により変化する。GF強化、難燃、耐熱、摺動、光学グレードでは値が大きく異なるため、量産採用時は必ずメーカー物性表で確認する必要がある。
| 項目 | 単位 | 標準PC | 難燃PC | GF20〜30%強化PC | PC/ABS | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 密度 | g/cm3 | 1.19〜1.22 | 1.20〜1.25 | 1.30〜1.45 | 1.10〜1.18 | 充填材、難燃剤、ABS比率で変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 55〜75 | 55〜75 | 80〜130 | 45〜65 | 乾燥状態、温度、ウェルドの影響を受ける。 |
| 伸び | % | 80〜150 | 50〜120 | 2〜5 | 30〜100 | GF強化では伸びが大きく低下する。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.1〜2.5 | 2.2〜2.7 | 5.0〜9.0 | 2.0〜2.8 | GF、無機フィラーで剛性が上がる。 |
| アイゾット衝撃強さ | J/m又はkJ/m2 | 非常に高い、ノッチ付きで60〜90 kJ/m2程度の例がある | 高い | 中〜高 | 高い | 規格表記差が大きい。PCは透明樹脂の中で耐衝撃性が高い。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 125〜140 | 120〜140 | 135〜150 | 90〜125 | 1.8MPa条件の目安である。荷重条件で変化する。 |
| 融点 | ℃ | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 明確な融点なし | 明確な融点なし | PCは非晶性樹脂である。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 145〜150 | 145〜150前後 | 145〜150前後 | 配合により異なる | 耐熱設計の重要指標である。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 100〜120 | 100〜120 | 110〜125 | 80〜105 | 荷重、応力、空気中、湿熱、薬品接触で変化する。 |
| 吸水率 | % | 0.15〜0.35 | 0.15〜0.35 | 0.10〜0.30 | 0.10〜0.30 | PAほど大きくないが、成形前乾燥と寸法精度には影響する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1015〜1017 | 1014〜1017 | 1014〜1016 | 1014〜1016 | 帯電防止、導電グレードでは大きく低下する。 |
| 酸素指数 | % | 25〜29程度 | 高め | グレードによる | グレードによる | 難燃性はUL94等級で確認する。 |
| UL94 | 等級 | HB〜V-2程度の例がある | V-0対応グレードあり | V-0対応グレードあり | V-0対応グレードあり | 板厚、色、添加剤、認証ファイルで確認する。 |
耐薬品性
PCの耐薬品性は、薬品の種類だけでなく、温度、濃度、接触時間、応力、成形残留応力、グレード、添加剤、表面処理で大きく変化する。特に透明成形品、薄肉成形品、ねじ締結部、曲げ応力部では、短時間接触でも応力割れが起こる場合がある。
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸、クエン酸 | ○〜△ | 常温・低濃度では比較的安定な場合がある。高温、濃硫酸、酸化性酸では劣化、白化、強度低下に注意する。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、炭酸ナトリウム、アンモニア水 | △〜× | カーボネート結合がアルカリで加水分解を受けやすい。高温、高濃度、長時間では不適となる場合が多い。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | ○〜△ | 短時間接触では使用できる場合があるが、応力部、濃厚接触、混合溶剤、拭き取り洗浄ではクラックに注意する。 |
| 高級アルコール類 | グリセリン、プロピレングリコール、MMB、ベンジルアルコール | ○〜△ | 多価アルコールは比較的安定な場合がある。ベンジルアルコールなど芳香族性のある溶剤は膨潤やクラックに注意する。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | × | 膨潤、白化、軟化、応力割れが起こりやすい。塗料、接着剤、シンナーに含まれる場合は特に注意する。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、イソパラフィン、ミネラルスピリット | ○〜△ | 芳香族溶剤より安定な場合が多いが、添加剤、油剤、混合溶剤、応力条件でクラックが起こる場合がある。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | × | 溶解、膨潤、白化、クラックを起こしやすい。洗浄、印刷、塗装工程では避けるべき薬品群である。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、DBE | ×〜△ | 膨潤、軟化、応力割れに注意する。低濃度・短時間でも残留応力部では不具合が出る場合がある。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | × | 溶解又は激しい膨潤を起こしやすい。接着・洗浄用途では環境規制、安全性も含めて避けるべきである。 |
| 水・温水 | 水道水、純水、温水、蒸気 | ○〜△ | 常温水では比較的安定である。高温水、蒸気滅菌、湿熱、アルカリ性洗浄では加水分解に注意する。 |
| 油 | 鉱物油、シリコーン油、植物油、グリース | ○〜△ | 多くの油に比較的安定な場合があるが、添加剤、酸化劣化油、燃料混入、応力部では確認が必要である。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油、アルコール混合燃料 | △〜× | 芳香族成分、アルコール成分、添加剤により膨潤、クラックのリスクがある。燃料系部品ではPC単独採用は慎重に判断する。 |
| 洗剤・消毒剤 | 中性洗剤、アルカリ洗剤、次亜塩素酸塩、アルコール消毒剤 | ○〜× | 中性洗剤は比較的使用しやすいが、アルカリ洗剤、アルコール高濃度品、酸化性薬品、界面活性剤との組合せでは応力割れを確認する。 |
SP値(溶解度パラメータ)
ポリカーボネートの代表的なSP値(δ)は、一般に約19.0〜20.5 MPa1/2程度が目安である。ビスフェノールA型PC、共重合PC、難燃PC、GF強化PC、PC/ABS、PC/PBTでは、実質的な溶解・膨潤挙動が異なる。
| 材料 | 代表SP値 δ MPa1/2 | 備考 |
|---|---|---|
| ポリカーボネート(PC) | 約19.0〜20.5 | 代表値である。文献、グレード、測定・推算法により差がある。 |
| PC/ABS | 約18.5〜20.5 | PCとABSの配合比率により変化する。 |
| GF強化PC | 樹脂相として約19.0〜20.5 | ガラス繊維自体は溶解しないが、界面、応力、吸水、薬品浸透に注意する。 |
SP値は溶解・膨潤の初期判断に有効であるが、PCの耐薬品性をSP値だけで判定することはできない。実際には、HSP、結晶性の有無、分子量、添加剤、残留応力、温度、濃度、接触時間、薬品の酸・アルカリ性、加水分解性、酸化性、界面活性、混合溶剤効果を含めて評価する必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下はPCの代表SP値を20.0 MPa1/2と仮定した場合の目安である。実際の耐性はSP値差だけでなく、薬品の化学反応性、極性、水素結合性、温度、応力、濃度、混合溶剤、接触時間により変化する。
| 薬品名 | 代表SP値 | PCとの差 | 評価 | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 約47.9 | 約27.9 | ○ | SP差は大きいが、高温水・蒸気では加水分解に注意する。 |
| エタノール | 約26.0 | 約6.0 | ○〜△ | 短時間では使用できる場合があるが、応力割れ確認が必要である。 |
| IPA | 約23.5 | 約3.5 | △ | 拭き取り、浸漬、応力部、透明部品ではクラックに注意する。 |
| アセトン | 約20.0 | 約0 | × | 溶解、膨潤、白化を起こしやすい。 |
| MEK | 約19.0 | 約1.0 | × | 塗料・接着剤・洗浄剤中の含有に注意する。 |
| 酢酸エチル | 約18.2 | 約1.8 | × | 膨潤、クラック、応力割れのリスクが高い。 |
| トルエン | 約18.2 | 約1.8 | × | 芳香族炭化水素であり、PCには不適な場合が多い。 |
| キシレン | 約18.0 | 約2.0 | ×〜△ | 長時間接触、応力部では避けるべきである。 |
| ヘキサン | 約14.9 | 約5.1 | ○〜△ | SP差はあるが、混合溶剤や油剤添加剤では確認が必要である。 |
| ジクロロメタン | 約20.2 | 約0.2 | × | PCを強く侵す代表的な溶剤である。 |
| グリセリン | 約33.8 | 約13.8 | ◎〜○ | 比較的安定な場合が多いが、高温、添加剤、長時間接触は確認する。 |
| 鉱物油 | 約16〜18 | 約2〜4 | ○〜△ | 油種、添加剤、酸化劣化、温度、応力で変化する。 |
| 評価 | 意味 |
|---|---|
| ◎ | 非常に良好。通常条件では溶解・膨潤・クラックが起こりにくい目安である。 |
| ○ | 概ね良好。短時間接触や常温では使用できる場合がある。 |
| △ | 注意が必要。濃度、温度、応力、接触時間により膨潤、白化、応力割れが起こる場合がある。 |
| × | 不適。溶解、膨潤、軟化、クラック、加水分解のリスクが高い。 |
製法
PCは、一般にビスフェノールAと炭酸誘導体を反応させて製造される芳香族ポリカーボネートが主流である。代表的な方法には、ホスゲンを用いる界面重縮合法と、ジフェニルカーボネートを用いる溶融エステル交換法がある。近年は安全性、環境負荷、残留不純物、光学品質、分子量制御の観点から、用途に応じた製法・精製技術が選択される。
製法1:ホスゲン法
ビスフェノールAとホスゲンを反応させて作る

製法2:非ホスゲン法
ビスフェノールAのアルカリ水溶液とホスゲンの塩化メチレン溶液との界面重縮合による方法
製法3:エステル交換法(別名 溶解法)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを高温・減圧下で製造されたもの。この方法で製造されたポリカーボネートは、ホスゲン法に比べて分子量分布が狭くなっている。

| 工程 | 内容 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 原料 | ビスフェノールA、ホスゲン又はジフェニルカーボネート、触媒、分子量調整剤などを用いる。 | 光学用途、食品接触、医療用途では残留モノマー、低分子、金属不純物、添加剤を確認する。 |
| 界面重縮合法 | ビスフェノールAのアルカリ水溶液とホスゲンを有機溶媒相で反応させ、ポリカーボネートを生成する。 | 分子量制御、末端基、残留塩、溶媒管理が品質に影響する。 |
| 溶融エステル交換法 | ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融状態でエステル交換し、フェノールを除去しながら重合する。 | 高温下での色相、分子量、揮発成分、熱履歴管理が重要である。 |
| 代表的な反応式 | n HO−Ar−OH + n COCl2 → [−O−Ar−O−CO−]n + 2n HCl n HO−Ar−OH + n PhO−CO−OPh → [−O−Ar−O−CO−]n + 2n PhOH | ArはビスフェノールA骨格、Phはフェニル基を示す。実際の工程では触媒、相間移動、分子量調整、脱揮が関与する。 |
| ペレット化 | 重合後に脱揮、ろ過、押出、ペレット化を行う。 | 異物、ゲル、黒点、黄変、水分、分子量分布が成形品質に影響する。 |
| コンパウンド | 難燃剤、紫外線吸収剤、安定剤、離型剤、着色剤、拡散剤、GF、CF、PTFE、帯電防止剤などを配合する。 | 添加剤により透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、法規制適合性、アウトガスが変化する。 |
| 乾燥・包装 | ペレット水分を管理し、防湿包装又は適切な保管を行う。 | 吸湿したPCは成形時に加水分解しやすいため、開封後の保管と再乾燥が重要である。 |
詳細な利用用途
| 分野 | 主な用途 | 採用理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | ヘッドランプレンズ、導光部品、内装パネル、メーターカバー、センサー窓、電装ケース | 透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、意匠性に優れる。 | 耐候性、黄変、塗装溶剤、洗車薬品、燃料、応力割れを確認する。 |
| 電気・電子 | コネクタ、スイッチ部品、電源部品、透明カバー、筐体、絶縁部品 | 電気絶縁性、耐熱性、難燃グレードの選択肢が多い。 | UL94、RTI、トラッキング、アウトガス、難燃剤規制を確認する。 |
| 機械部品 | ギア、カム、ローラー、透明窓、保護カバー、治具 | 耐衝撃性、寸法安定性、切削性、透明性を活用できる。 | 摺動摩耗、クリープ、薬品、油剤、締結応力によるクラックに注意する。 |
| 医療 | 透明部品、ハウジング、検査機器部品、コネクタ、フィルターケース | 透明性、耐衝撃性、寸法安定性、滅菌対応グレードの選択肢がある。 | 蒸気滅菌、薬液滅菌、アルコール消毒、脂質接触、規格適合をグレード単位で確認する。 |
| 食品機械 | 透明カバー、点検窓、保護板、容器、搬送部品 | 透明性、衝撃安全性、洗浄時の視認性に優れる。 | 食品接触適合、アルカリ洗浄、温水、油脂、次亜塩素酸塩、応力割れを確認する。 |
| 建築・設備 | 採光板、屋根材、透明間仕切り、防護板、照明カバー | 軽量、透明、耐衝撃、施工性に優れる。 | 屋外では耐候グレード、UV層、ハードコート、熱膨張、固定応力を確認する。 |
| 光学・照明 | レンズ、導光板、LEDカバー、拡散板、ライトガイド | 透明性、耐熱性、成形自由度、耐衝撃性に優れる。 | 複屈折、黄変、熱エージング、光劣化、アウトガス、金型転写性を管理する。 |
| 安全・保護具 | ヘルメット、フェイスシールド、防護板、機械ガード | 高い耐衝撃性と透明性を活用できる。 | 薬品洗浄、アルコール消毒、傷、紫外線、疲労劣化を確認する。 |
用途別選定の目安
| 用途 | 推奨される代表グレード | 確認すべき項目 |
|---|---|---|
| 透明カバー・保護板 | 標準PC、耐候PC、ハードコートPC | 耐衝撃性、透明性、耐擦傷性、アルコール洗浄、屋外耐候性 |
| レンズ・導光部品 | 光学PC、低複屈折PC | 光線透過率、ヘイズ、複屈折、黄変、成形残留応力 |
| 電気電子筐体 | 難燃PC、PC/ABS | UL94、RTI、耐熱性、寸法安定性、成形性、外観 |
| ギア・摺動部品 | 摺動PC、GF強化PC | 摩耗、摩擦係数、荷重、相手材、潤滑油、クリープ |
| 食品機械部品 | 食品接触対応PC | 規格適合、温水、アルカリ洗浄、油脂、洗剤、クラック |
| コネクタ・機構部品 | GF強化PC、難燃PC、PC/PBT | 剛性、HDT、寸法精度、反り、難燃性、耐薬品性 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | ポリカーボネートとの違い |
|---|---|---|
| アクリル樹脂(PMMA) | 透明性、耐候性、表面硬度に優れる透明樹脂である。 | PMMAは透明性と耐擦傷性、耐候性で有利な場合があるが、PCは耐衝撃性と耐熱性で有利である。 |
| ABS樹脂 | 成形性、外観性、耐衝撃性、コストバランスに優れるスチレン系樹脂である。 | ABSは成形性と外観性で有利な場合があるが、PCは耐熱性、透明性、衝撃強度で有利である。PC/ABSは両者の中間的な材料である。 |
| PETG樹脂 | 透明性、熱成形性、成形加工性に優れる非晶性ポリエステル系樹脂である。 | PETGは成形温度、耐薬品性、BPA非使用要求で有利な場合があるが、PCは耐熱性と耐衝撃性で有利である。 |
| ポリブチレンテレフタレート(PBT) | 結晶性ポリエステルで、電気特性、耐薬品性、寸法安定性に優れる。 | PBTは耐薬品性、成形サイクル、電装部品で有利な場合があるが、一般に透明ではない。PCは透明性と耐衝撃性で有利である。 |
| ポリアミド(PA) | 結晶性樹脂で、機械強度、耐摩耗性、耐油性に優れる。 | PAは耐摩耗性、耐油性、疲労特性で有利な場合があるが、吸水による寸法変化が大きい。PCは透明性と寸法安定性で有利である。 |
| ポリアセタール(POM) | 結晶性エンプラで、摺動性、耐摩耗性、耐疲労性、寸法安定性に優れる。 | POMはギア、軸受、摺動部品で有利な場合があるが、透明性はない。PCは透明性と耐衝撃性を重視する用途に適する。 |
| ポリフェニレンサルファイド(PPS) | スーパーエンプラで、耐熱性、耐薬品性、難燃性、寸法安定性に優れる。 | PPSは高温・耐薬品部品で有利であるが、透明性はなく、成形温度も高い。PCは透明性と衝撃性を重視する用途に適する。 |
| ガラス繊維強化プラスチック(GFRP) | ガラス繊維で強化した複合材料で、剛性、強度、寸法安定性を高めた材料群である。 | GF強化PCは剛性とHDTを高められるが、透明性は失われる。一般のGFRPはマトリックス樹脂により耐熱性、耐薬品性が大きく異なる。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 帝人株式会社 | パンライト®、マルチロン® | ポリカーボネート樹脂及びPC系アロイを展開する代表的な国内メーカーである。透明、難燃、耐候、シート・フィルムなどの用途展開がある。 |
| 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 | ユーピロン™、ノバレックス™ | PC樹脂を中心に、電気電子、OA、機械、光学、自動車、医療、保安、スポーツなど幅広い用途向けに展開している。 |
| Covestro | Makrolon® | 透明性、耐衝撃性、耐熱性を特徴とするポリカーボネートを展開する主要メーカーである。自動車、電気電子、光学、建材などに使用される。 |
| SABIC | LEXAN™ | 高耐衝撃、透明、耐熱、難燃などのPC樹脂を展開する主要メーカーである。自動車、建築、電気電子、安全部品などで採用例が多い。 |
| Trinseo | CALIBRE™ | 透明性、耐熱性、耐衝撃性を特徴とするポリカーボネート樹脂を展開する。照明、医療、家電、自動車などの用途がある。 |
| 出光興産株式会社 | タフロン™ | ポリカーボネート樹脂の代表的な国内ブランドとして知られる。用途、グレード、供給状況は最新のメーカー情報で確認する必要がある。 |
関連キーワード
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