概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料名 | エチレン・ビニルアルコール共重合体 |
| 略記号 | EVOH、EVAL系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂 |
| IUPAC | poly(ethylene-co-vinyl alcohol) と表記されることが多い。厳密にはエチレン単位とビニルアルコール単位からなるランダムまたは統計共重合体である。 |
| 英語名 | Ethylene Vinyl Alcohol Copolymer、Ethylene-Vinyl Alcohol Resin |
| 日本語名 | エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、EVOH樹脂、ガスバリア樹脂 |
| 分類 | 熱可塑性樹脂、バリア性樹脂、ポリオレフィン系改質樹脂、包装用機能性樹脂 |
| プラスチック分類 | 一般には機能性プラスチックまたは特殊プラスチックとして扱われる。機械部品用エンプラというより、酸素バリア性・有機溶剤バリア性を目的とした多層包装材料用樹脂である。 |
| 化学式または代表構造 | 代表構造:-[CH2-CH2]m-[CH2-CH(OH)]n– |
| CAS No. | 26221-27-2 がエチレン・ビニルアルコール共重合体の代表CAS No.として用いられることがある。ただし、エチレン含有率、けん化度、グレードにより登録情報が異なる場合がある。 |
| 構造・主成分 | エチレン単位とビニルアルコール単位を主成分とする共重合体である。一般にはエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)をけん化して製造される。 |
| 主な用途 | 食品包装用多層フィルム、レトルト容器、チューブ、ボトル、燃料タンク、農薬・薬品容器、医療包装、香気保持包装、床暖房配管の酸素バリア層など。 |
エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、非常に高い酸素バリア性、香気保持性、有機溶剤バリア性を特徴とする熱可塑性樹脂である。食品包装、医薬・医療包装、燃料系部品、多層容器などで広く使用される。単独樹脂として構造部品に用いるよりも、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材樹脂と組み合わせ、多層構成の中間バリア層として用いられることが多い。
EVOHは分子中に多数の水酸基を持つため、乾燥状態では酸素透過を大きく抑制する。一方で、吸湿により水酸基間の相互作用が弱まり、ガスバリア性が低下しやすい。したがって実使用では、温度、湿度、内容物、水分活性、層厚、接触時間、多層構成、接着性樹脂の選定を含めて評価する必要がある。
エチレン含有率が低いグレードほど酸素バリア性は高くなりやすいが、成形加工性、耐水性、柔軟性は低下しやすい。逆にエチレン含有率が高いグレードでは、溶融成形性、耐湿性、柔軟性が改善する傾向があるが、酸素バリア性はやや低下する。材料選定では、バリア性だけでなく、加工温度、共押出適性、延伸性、耐湿熱性、食品接触適合性を総合的に確認することが重要である。
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 長所 | 酸素バリア性が非常に高い。香気保持性、有機溶剤バリア性、油脂バリア性が良好である。透明性があり、多層フィルム・多層容器に適用しやすい。 |
| 短所 | 吸湿により酸素バリア性が低下しやすい。単層での耐水・耐湿用途には注意を要する。ポリオレフィンとの直接接着性は低く、通常は接着性樹脂が必要である。 |
| 外観 | 一般に乳白色から透明性のあるペレットであり、フィルム化すると透明性を示すグレードが多い。結晶性、層厚、加工条件により透明性は変化する。 |
| 耐熱性 | 融点は代表的に約160〜190℃程度であり、エチレン含有率により変化する。連続使用温度は用途や荷重により異なるが、包装用途では80〜100℃程度を目安に検討されることが多い。 |
| 耐薬品性 | 油脂、燃料、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、有機溶剤に対するバリア性は一般に良好である。一方、水、温水、強酸、強アルカリ、低級アルコール、高湿度環境では吸湿、膨潤、バリア低下に注意が必要である。 |
| 加工性 | 押出成形、共押出フィルム、共押出ブロー、多層シート、射出成形に適用される。吸湿しやすいため、成形前乾燥と滞留熱劣化管理が重要である。 |
| 分類上の注意 | EVOHはエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)と名称が近いが、EVAとは性質が大きく異なる。EVAは柔軟性・接着性を特徴とするが、EVOHは酸素バリア性・溶剤バリア性を主目的とする材料である。 |
構造式

エチレン単位とビニルアルコール単位からなる共重合体。構造中の官能基、結晶性、架橋密度、芳香族骨格、充填材の有無により、耐熱性、耐薬品性、機械的性質、成形性が変化する。
代表的な構造単位は、エチレン単位とビニルアルコール単位からなる次のような共重合構造である。
| 項目 | 構造・内容 |
|---|---|
| 代表構造 | -[CH2-CH2]m-[CH2-CH(OH)]n– |
| エチレン単位 | -CH2-CH2– |
| ビニルアルコール単位 | -CH2-CH(OH)- |
| 主な原料 | エチレン、酢酸ビニル、メタノール、水酸化ナトリウムなどのけん化触媒が用いられることが多い。 |
| 共重合体の特徴 | ビニルアルコール単位の水酸基により強い分子間相互作用を示し、酸素透過を抑える。一方で、水分を吸収すると分子間相互作用が弱まり、バリア性が低下しやすい。 |
| グレード差 | エチレン含有率、けん化度、MFR、分子量、結晶性、添加剤、多層成形向け設計により、バリア性、成形性、耐湿性、延伸性が変化する。 |
模式的には、EVOHは以下の工程で得られる。
エチレン + 酢酸ビニル → エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)
-[CH2-CH2]m-[CH2-CH(OCOCH3)]n– + NaOH または CH3OH → -[CH2-CH2]m-[CH2-CH(OH)]n– + 酢酸塩または酢酸エステル類
種類
| 種類の名称 | 主成分または特徴 | 長所 | 短所 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 低エチレン含有EVOH | エチレン含有率が比較的低いグレード。代表的には20〜30 mol%程度の範囲がある。 | 酸素バリア性が非常に高い。乾燥条件でのガス遮断性に優れる。 | 吸湿影響を受けやすい。成形加工性、柔軟性、耐水性はやや低下しやすい。 | 高酸素バリア包装、食品包装、多層フィルム、レトルト容器のバリア層 |
| 中エチレン含有EVOH | バリア性と加工性のバランスを重視した代表的グレード。 | 酸素バリア性、成形加工性、透明性のバランスが良い。 | 高湿度下ではバリア性低下を考慮する必要がある。 | 一般食品包装、多層ボトル、多層シート、チューブ |
| 高エチレン含有EVOH | エチレン含有率が比較的高いグレード。柔軟性、耐湿性、加工性を重視する。 | 共押出性、延伸性、耐湿性、柔軟性に優れる傾向がある。 | 低エチレン含有グレードに比べると酸素バリア性は低下しやすい。 | 延伸フィルム、柔軟包装、チューブ、湿度影響を受ける包装 |
| 高流動EVOH | MFRを高め、薄層共押出や高速成形に適合させたグレード。 | 薄膜化、多層成形、フィルム成形で加工しやすい。 | 滞留熱劣化、ゲル、フィッシュアイに注意が必要である。 | 多層フィルム、共押出コーティング、薄肉バリア層 |
| ブロー成形用EVOH | 多層ブロー成形に適した溶融粘度と成形安定性を持つグレード。 | 燃料、薬品、食品用ボトルのバリア層に適する。 | 隣接樹脂との接着、パリソン安定性、層厚均一性の設計が必要である。 | 多層ボトル、燃料タンク、薬品容器、農薬容器 |
| 食品接触対応EVOH | 食品包装用途を想定し、各国法規制に対応したグレード。 | 食品包装、多層容器に使いやすい。酸素バリアによる内容物保護に有効である。 | 直接食品接触層ではなく中間層として設計される場合が多く、法規制確認が必要である。 | 食品包装、レトルト包装、乳製品包装、調味料容器 |
| 変性EVOH・特殊EVOH | 柔軟性、耐湿性、延伸性、リサイクル適性などを調整した特殊グレード。 | 用途に応じたバリア性、成形性、柔軟性の調整が可能である。 | 汎用グレードよりも価格、入手性、法規制確認が必要になる場合がある。 | 高機能包装、医療包装、リサイクル対応多層包装、特殊バリア用途 |
代表グレード
| グレード区分 | 特徴 | 主な用途 | 選定上の注意 |
|---|---|---|---|
| 汎用グレード | 酸素バリア性と押出加工性のバランスを重視した標準タイプである。 | 食品包装、多層フィルム、多層シート | 湿度条件と層構成を確認する必要がある。 |
| 高バリアグレード | 低エチレン含有率により、乾燥状態で高い酸素バリア性を示す。 | 高酸素バリア包装、レトルト包装、香気保持包装 | 吸湿によるバリア低下、加工温度範囲の狭さに注意する。 |
| 耐湿・高エチレングレード | 高湿度下でのバリア保持性、柔軟性、成形性を重視する。 | チューブ、柔軟包装、湿度影響を受ける包装 | 高バリアグレードより酸素バリア性は低くなる傾向がある。 |
| ブロー成形グレード | 多層ブロー成形に適した溶融粘度と熱安定性を持つ。 | 燃料タンク、ボトル、薬品容器 | 接着性樹脂、層厚、リグラインド材使用比率を確認する。 |
| 難燃グレード | EVOH単独では難燃材料として選定されることは少ない。必要に応じて複合設計で対応する。 | 特殊フィルム、電気・電子周辺のバリア用途 | UL94などの規格値はグレード別に確認する必要がある。 |
| GF強化グレード | EVOHでは一般的な標準用途では少ない。剛性付与よりもバリア層としての機能が重視される。 | 特殊成形品、機能性複合材料 | ガラス繊維による透明性低下、成形性、界面接着を確認する。 |
| 摺動グレード | 摺動部品用樹脂としては一般的ではない。 | 通常はポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、フッ素樹脂が候補になる。 | EVOHは摺動性よりもバリア性を目的に選定する材料である。 |
| 食品接触グレード | 食品包装用途に適したグレードであり、各国の食品接触規制への適合確認が重要である。 | 食品包装、調味料容器、レトルト容器、乳製品包装 | 日本の食品衛生法、ポジティブリスト、FDA、EU規制などを用途別に確認する。 |
成形加工
| 加工方法 | 適正 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 射出成形 | ○ | 小型成形品、試験片、特殊バリア部品に適用できる。 | 吸湿管理、滞留熱劣化、金型温度、ゲート部の流動ムラに注意する。 |
| 押出成形 | ◎ | フィルム、シート、チューブ、コーティング、多層構成に広く用いられる。 | 乾燥、ゲル発生、押出温度、スクリュー内滞留時間を管理する。 |
| 共押出成形 | ◎ | EVOHの代表的な加工方法であり、PE、PP、PET、PAなどと組み合わせる。 | 通常は接着性樹脂が必要である。層厚、界面接着、リサイクル設計を確認する。 |
| ブロー成形 | ◎ | 多層ボトル、燃料タンク、薬品容器に使用される。 | パリソン安定性、層分布、ピンチオフ部のバリア層連続性を確認する。 |
| インフレーション成形 | ○ | 多層フィルム用途で使用される。 | 他樹脂との溶融粘度バランス、延伸性、膜厚ムラに注意する。 |
| Tダイキャスト成形 | ◎ | 多層シート、ラミネート用フィルムに適する。 | 冷却条件、透明性、ゲル、フィッシュアイを管理する。 |
| 圧縮成形 | △ | 試験片作製や研究用途では可能である。 | 量産加工としては一般的ではない。熱劣化と気泡に注意する。 |
| 真空成形 | ○ | 多層シートとして容器成形に使用される。 | 深絞り時のバリア層薄肉化、クラック、層間剥離を確認する。 |
| 切削加工 | △ | 試験片や小ロット部品で可能である。 | 吸湿、寸法変化、切削熱、単独材料としての剛性不足に注意する。 |
| 溶着・シール | △ | 多層フィルムではシール層にPEやPPを用いる設計が多い。 | EVOH自体をシール層として使うより、バリア中間層として設計するのが一般的である。 |
成形条件の目安
| 項目 | 代表値・目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 乾燥温度 | 80〜110℃ | グレード、含水率、成形方法により異なる。過乾燥や高温長時間乾燥による劣化にも注意する。 |
| 乾燥時間 | 3〜8時間 | 除湿乾燥機の使用が望ましい。開封後の吸湿管理が重要である。 |
| シリンダー温度 | 180〜240℃ | 融点、MFR、エチレン含有率により調整する。過熱滞留によりゲル、黄変、分解が発生する場合がある。 |
| ダイ温度 | 190〜240℃ | 押出安定性、膜厚、透明性、ゲル発生を見ながら調整する。 |
| 金型温度 | 20〜80℃ | 射出成形、シート成形、ブロー成形で条件が異なる。結晶化、透明性、寸法安定性に影響する。 |
| 成形収縮率 | 0.3〜1.5%程度 | 代表値であり、層構成、結晶性、流動方向、成形条件により変化する。 |
| 推奨水分管理 | 低含水状態で成形 | 具体的な許容水分率はグレード別のメーカー資料で確認する。吸湿すると気泡、外観不良、バリア低下につながる。 |
| リグラインド材 | 条件付きで使用 | 多層包装ではリグラインド層として再利用される場合がある。熱履歴、異物、ゲル、バリア層比率を管理する。 |
代表的な物性値又は機械的性質
| 項目 | 単位 | EVOH代表値 | 高バリア系EVOH | 高エチレン系EVOH | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 比重・密度 | g/cm3 | 1.12〜1.21 | 1.17〜1.21 | 1.12〜1.17 | エチレン含有率、結晶化度、添加剤により変化する。 |
| 引張強さ | MPa | 50〜90 | 60〜100 | 40〜80 | 乾燥状態の代表値である。吸湿により低下または延性変化が生じる場合がある。 |
| 伸び | % | 20〜300 | 10〜150 | 50〜400 | エチレン含有率、分子量、試験片、湿度条件により大きく変化する。 |
| 曲げ弾性率 | GPa | 2.0〜4.5 | 3.0〜5.0 | 1.5〜3.5 | 吸湿により弾性率が低下する場合がある。 |
| アイゾット衝撃強さ | J/m | 20〜150 | 20〜100 | 50〜200 | ノッチ有無、湿度、温度により差が大きい。 |
| 荷重たわみ温度 | ℃ | 60〜100 | 70〜110 | 50〜90 | 荷重条件により変化する。高荷重下では低めに評価する。 |
| 融点 | ℃ | 160〜190 | 175〜190 | 155〜180 | エチレン含有率により変化する。 |
| ガラス転移温度 | ℃ | 50〜70 | 55〜75 | 45〜65 | 吸湿状態により見かけのTgが低下する場合がある。 |
| 連続使用温度 | ℃ | 80〜100 | 80〜100 | 70〜100 | 代表目安である。荷重、湿度、酸素、内容物、使用時間により確認が必要である。 |
| 吸水率 | % | 2〜8 | 高め | やや低め | 水酸基を持つため吸湿性がある。温湿度条件により大きく変化する。 |
| 体積抵抗率 | Ω・cm | 1013〜1016 | 1013〜1016 | 1013〜1016 | 乾燥状態の目安である。吸湿により低下する場合がある。 |
| 酸素透過性 | 相対評価 | 非常に低い | 最も低い傾向 | 低いが高バリア系より大きい | 湿度、温度、層厚、結晶性に強く依存する。 |
| 難燃性 | UL94 | グレード依存 | グレード依存 | グレード依存 | EVOHは難燃材料として選定されることは少ない。UL94は個別グレードで確認する。 |
| 酸素指数 | % | 概ね20〜25程度の範囲で確認が必要 | グレード依存 | グレード依存 | 代表値が限定的であり、難燃設計では実測またはメーカー値を確認する。 |
耐薬品性
| 薬品分類 | 代表薬品 | 評価 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酸類 | 希塩酸、希硫酸、酢酸 | △ | 短時間・低濃度では使用できる場合があるが、強酸、高温、長時間では劣化、膨潤、バリア低下に注意する。 |
| 強酸類 | 濃硫酸、濃硝酸、クロム酸 | × | 酸化性、脱水性が強い薬品では使用を避けるのが一般的である。 |
| アルカリ類 | 水酸化ナトリウム、KOH、アンモニア水 | △ | 低濃度・常温では条件により使用可能な場合があるが、高濃度、高温、長時間では加水分解や物性低下に注意する。 |
| 低級アルコール類 | メタノール、エタノール、IPA | △ | 分子中の水酸基との親和性が高く、膨潤やバリア性低下が起こる場合がある。濃度と水分量の確認が必要である。 |
| 高級アルコール類 | ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、MMB | △〜○ | 薬品により差が大きい。高温、長時間接触、可塑化作用のある溶剤では確認が必要である。 |
| 芳香族炭化水素類 | トルエン、キシレン、エチルベンゼン | ○〜◎ | バリア性は良好な傾向がある。ただし応力、薄肉、多層界面では透過、層間剥離を確認する。 |
| 脂肪族炭化水素類 | ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット | ◎ | 一般に良好である。燃料用途では温度、燃料組成、アルコール混合、添加剤の影響を確認する。 |
| ケトン | アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン | △ | 溶剤種により膨潤や物性低下が起こる場合がある。SP値が近い場合でも水素結合性、極性、温度で挙動が変化する。 |
| エステル | 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル | △〜○ | 短時間では良好な場合があるが、長時間接触では透過、膨潤、層間接着低下に注意する。 |
| 塩素系溶剤 | ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン | △ | 強い溶剤性を示すものがあり、使用条件により注意が必要である。安全衛生・法規制面でも使用を慎重に判断する。 |
| 水・温水 | 水、温水、蒸気、レトルト水 | △ | 吸湿により酸素バリア性が低下しやすい。温水、蒸気、レトルトでは層構成とバリア回復性を確認する。 |
| 油脂 | 植物油、動物油、鉱物油、潤滑油 | ◎ | 油脂バリア性は一般に良好である。添加剤、酸化劣化油、高温油では確認が必要である。 |
| 燃料 | ガソリン、軽油、灯油、アルコール混合燃料 | ○〜◎ | 炭化水素燃料へのバリア性は良好であるが、エタノール混合燃料、添加剤、温度サイクルでは実測評価が必要である。 |
| 界面活性剤水溶液 | 洗剤、乳化液、アルカリ洗浄液 | △ | 水分、pH、界面活性剤、温度、接触時間の複合影響を受ける。HSPだけで判断しない。 |
SP値(溶解度パラメータ)
| 項目 | 代表値 | 備考 |
|---|---|---|
| EVOHのSP値 | 約25〜30 MPa1/2 | 推定を含む代表範囲である。エチレン含有率、けん化度、結晶性、吸湿状態により変化する。 |
| 低エチレン含有EVOH | 約27〜30 MPa1/2 | ビニルアルコール単位が多いため、極性・水素結合性が強くなる傾向がある。 |
| 高エチレン含有EVOH | 約25〜28 MPa1/2 | エチレン単位が増えると疎水性が増し、SP値はやや低下する傾向がある。 |
SP値は溶解・膨潤傾向を推定するための有用な指標であるが、EVOHの耐薬品性はSP値だけでは判断できない。特にEVOHでは、水素結合、吸湿、結晶性、ガラス転移温度、温度、湿度、応力、層厚、多層界面、接着性樹脂、内容物のpH、添加剤、接触時間の影響が大きい。実使用では必ず実液浸漬試験、透過試験、層間接着試験を行う必要がある。
溶解性の目安
| SP値差 | 溶解・膨潤の目安 | 判定 |
|---|---|---|
| 0〜2 | 膨潤・軟化しやすい | × |
| 2〜5 | 条件により膨潤する | △ |
| 5〜8 | 短時間接触では比較的安定 | ○ |
| 8以上 | 溶解・膨潤しにくい | ◎ |
SP値から見た耐溶剤性
以下は、EVOHの代表SP値を27 MPa1/2と仮定した場合の目安である。実際のEVOHはグレード、吸湿状態、温度、結晶性、エチレン含有率により挙動が変わるため、耐薬品性の最終判断には使用できない。
| 薬品名 | 代表SP値 MPa1/2 | EVOHとの差 | SP値上の評価 | 実用上の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 47.9 | 20.9 | ◎ | SP差は大きいが、EVOHは吸湿するためバリア性低下に注意する。 |
| メタノール | 29.7 | 2.7 | △ | 水素結合性が強く、膨潤・可塑化に注意する。 |
| エタノール | 26.0 | 1.0 | × | SP値が近く、濃度、水分、温度により膨潤やバリア低下が起こりやすい。 |
| IPA | 23.5 | 3.5 | △ | 短時間では使用可能な場合があるが、長時間接触では確認が必要である。 |
| アセトン | 20.3 | 6.7 | ○ | SP差だけでは比較的安定に見えるが、極性溶剤であり膨潤確認が必要である。 |
| MEK | 19.0 | 8.0 | ◎ | 長時間接触、薄膜、多層界面では透過と接着低下を確認する。 |
| 酢酸エチル | 18.6 | 8.4 | ◎ | エステル系溶剤では膨潤、透過、界面影響を確認する。 |
| トルエン | 18.2 | 8.8 | ◎ | 炭化水素系へのバリア性は良好な傾向である。 |
| キシレン | 18.0 | 9.0 | ◎ | 高温・長時間・応力下では確認が必要である。 |
| ヘキサン | 14.9 | 12.1 | ◎ | 脂肪族炭化水素には一般に良好である。 |
| ジクロロメタン | 20.2 | 6.8 | ○ | 強い溶剤性があるため、SP評価より厳しく見る必要がある。 |
| グリセリン | 36.2 | 9.2 | ◎ | 高粘度・多価アルコールであり、水分、温度、長時間接触を確認する。 |
| 評価 | 意味 |
|---|---|
| ◎ | 非常に良好。SP値差からは溶解・膨潤しにくいと推定される。 |
| ○ | 概ね良好。短時間接触では使用可能な場合がある。 |
| △ | 注意が必要。濃度、温度、湿度、応力、接触時間により膨潤・劣化する場合がある。 |
| × | 不適。膨潤、軟化、バリア低下、物性低下が起こる可能性が高い。 |
製法
エチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合によって、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を生成し、この共重合体をアルカリでケン化してEVOHを製造する。

| 工程 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 原料 | エチレン、酢酸ビニルを主原料とする。けん化工程ではメタノール、水酸化ナトリウムなどが用いられることが多い。 | 原料純度、共重合比、残存酢酸ビニル、けん化度が最終物性に影響する。 |
| 共重合 | エチレンと酢酸ビニルを共重合し、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を得る。 | エチレン含有率はEVOHのバリア性、成形性、耐湿性に大きく影響する。 |
| けん化・アルコール分解 | EVA中の酢酸ビニル単位をビニルアルコール単位へ変換する。 | けん化度が低いとバリア性や耐薬品性に影響する場合がある。 |
| 洗浄・中和 | 副生成物、触媒、残留塩類を除去する。 | 残留成分は熱安定性、外観、食品接触適合性に影響する場合がある。 |
| ペレット化 | 溶融混練、ろ過、ペレット化により成形用樹脂とする。 | ゲル、異物、フィッシュアイを抑えるため、ろ過と熱履歴管理が重要である。 |
| コンパウンド | 必要に応じて熱安定剤、加工助剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤などが配合される。 | 添加剤は食品接触、透明性、バリア性、接着性に影響するため、用途別に確認する。 |
| 多層成形 | EVOHを中間バリア層とし、PE、PP、PET、PAなどと共押出する。 | ポリオレフィンとは直接接着しにくいため、無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどの接着性樹脂を用いる場合が多い。 |
代表的な基本反応式は以下のように表される。
n CH2=CH2 + m CH2=CH-OCOCH3 → -[CH2-CH2]n-[CH2-CH(OCOCH3)]m–
-[CH2-CH2]n-[CH2-CH(OCOCH3)]m– + CH3OH → -[CH2-CH2]n-[CH2-CH(OH)]m– + CH3COOCH3
詳細な利用用途
| 分野 | 用途例 | 採用理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 食品包装 | ハム・ソーセージ包装、チーズ包装、調味料容器、レトルト容器、真空包装、ガス置換包装 | 酸素バリア性、香気保持性、油脂バリア性が高い。 | 湿度、レトルト条件、内容物の水分活性によりバリア性が変化する。 |
| 飲料・液体容器 | 多層ボトル、ソース容器、ドレッシング容器、乳製品容器 | 酸素侵入を抑え、内容物の酸化劣化や香気損失を低減できる。 | 水分の多い内容物では外層・内層設計によりEVOHの吸湿を抑える必要がある。 |
| 自動車 | 燃料タンク、燃料チューブ、蒸発ガスバリア層 | 炭化水素燃料へのバリア性が高く、燃料透過低減に有効である。 | エタノール混合燃料、添加剤、温度サイクル、衝撃、層間接着を確認する。 |
| 電気・電子 | バリアフィルム、保護包装、電子部品包装 | 酸素、香気、有機物透過を抑える機能層として利用できる。 | 防湿バリアは高くないため、水蒸気バリアが必要な場合は他材料と併用する。 |
| 医療 | 医療包装、薬剤容器、滅菌包装のバリア層 | 酸素バリア性、透明性、薬品バリア性が有用である。 | 滅菌方法、抽出物、溶出物、薬機法、FDA、ISO規格を確認する。 |
| 食品機械 | 食品接触用包装材、チューブ、ライナー | 油脂、香気、酸素に対するバリア性を付与できる。 | 直接接触層に使うか中間層に使うかで規制確認が異なる。 |
| 建築・設備 | 床暖房配管、酸素バリアパイプ、設備配管のバリア層 | 酸素透過を抑え、金属部材の腐食リスク低減に寄与する。 | 温水、長期耐久性、曲げ、層間接着、加水分解を確認する。 |
| 農薬・化学品包装 | 農薬容器、溶剤容器、薬品ボトル、多層パウチ | 有機溶剤、香気、薬品の透過抑制に有効である。 | 薬品組成、pH、界面活性剤、溶剤、水分、温度による複合影響を評価する。 |
| 化粧品・日用品 | 香料容器、化粧品チューブ、洗剤容器 | 香気保持性、溶剤バリア性、内容物保護に有効である。 | アルコール、界面活性剤、香料、油剤による膨潤や透過を確認する。 |
用途別選定
| 用途 | EVOHの適性 | 推奨構成・考え方 | 確認すべき試験 |
|---|---|---|---|
| ギア | × | 摺動・耐摩耗用途には通常適さない。POM、PAを検討する。 | 摩耗試験、寸法安定性、吸湿試験 |
| 軸受 | × | 低摩擦材料としての採用は一般的ではない。フッ素樹脂、POM、PA系が候補である。 | 摩擦摩耗試験、PV限界試験 |
| チューブ | ◎ | PA/EVOH/PA、PE/接着層/EVOH/接着層/PEなどの多層構成でバリア層に用いる。 | 透過試験、層間剥離試験、曲げ疲労試験 |
| 筐体 | △ | 単独筐体材料としては一般的ではない。バリア機能を持たせる特殊用途で検討する。 | 耐衝撃、吸湿寸法変化、耐薬品性試験 |
| フィルム | ◎ | 代表用途である。多層フィルムの中間バリア層として使用する。 | 酸素透過率、ヘイズ、ピンホール、層厚測定 |
| コネクタ | ×〜△ | 電気部品用材料としては一般的ではない。PBT、PA、PPSが候補である。 | 絶縁抵抗、耐熱、吸湿、寸法安定性 |
| ボトル | ◎ | 多層ブローボトルのバリア層に適する。 | 透過試験、落下試験、ピンチオフ部のバリア連続性 |
| 燃料タンク | ◎ | 多層HDPEタンクの中間バリア層として有効である。 | 燃料透過試験、アルコール混合燃料試験、熱サイクル試験 |
法規制・規格上の注意
| 項目 | 確認内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| RoHS | 電気電子用途では制限物質の含有確認が必要である。 | 樹脂単体だけでなく、添加剤、顔料、接着性樹脂、リサイクル材も確認する。 |
| REACH | SVHC、登録物質、用途制限を確認する。 | 欧州向け包装・部材ではサプライヤーの適合証明を確認する。 |
| 食品衛生法 | 日本の食品接触用途ではポジティブリスト、使用条件、溶出規格を確認する。 | EVOHが中間層であっても、多層構成全体としての適合確認が必要である。 |
| FDA | 米国食品接触用途では該当するFDA規制、FCN、使用条件を確認する。 | 食品種、温度、接触時間、直接接触層か中間層かで判断が変わる。 |
| EU食品接触規制 | EU 10/2011などのプラスチック食品接触規制への適合確認が必要である。 | 総移行量、特定移行量、NIAS、積層構成の確認が必要である。 |
| 医療用途 | ISO 10993、USP Class VI、薬機法、滅菌適性などを確認する。 | 医療グレードであること、抽出物・溶出物、滅菌後物性を確認する。 |
| 難燃性 | UL94、酸素指数などを確認する。 | EVOHは通常、難燃性を主目的とした材料ではない。難燃性が必要な場合は個別グレードの認証を確認する。 |
| リサイクル適性 | 多層包装におけるEVOH含有率、相溶化剤、リサイクルガイドラインを確認する。 | 多層構成ではリサイクル流への影響を設計段階で確認する必要がある。 |
注意点
| 注意項目 | 内容 | 実務上の対策 |
|---|---|---|
| 吸湿 | EVOHは水酸基を持つため吸湿しやすく、吸湿により酸素バリア性が低下する。 | 防湿性のある外層・内層でEVOHを保護し、使用湿度で酸素透過率を測定する。 |
| 加水分解 | 高温水、強酸、強アルカリ、長時間接触では劣化する可能性がある。 | 温水浸漬、レトルト試験、pH別浸漬試験を行う。 |
| 応力割れ | 単独材料として応力下で薬品接触するとクラックや層間剥離が生じる場合がある。 | 曲げ応力下浸漬試験、実形状での耐薬品試験を行う。 |
| 熱劣化 | 溶融滞留により黄変、ゲル、フィッシュアイ、分解臭が発生する場合がある。 | シリンダー滞留時間を短くし、温度管理、パージ、乾燥管理を徹底する。 |
| アウトガス | 残留溶媒、添加剤、熱分解物により、用途によってはアウトガスが問題になる場合がある。 | 食品、医療、電子用途ではGC-MS、臭気、溶出、抽出物試験を行う。 |
| 層間接着 | PE、PPなどのポリオレフィンとは直接接着しにくい。 | 接着性樹脂を選定し、剥離強度、熱水後剥離、レトルト後剥離を確認する。 |
| 水蒸気バリア | EVOHは酸素バリア性に優れるが、防湿バリア材料としては限界がある。 | 水蒸気バリアが必要な場合は、PE、PP、アルミ、蒸着膜、コーティングとの複合設計を行う。 |
関連材料との比較
| 比較材料 | 特徴 | EVOHとの違い |
|---|---|---|
| エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA) | 柔軟性、低温特性、接着性、発泡性に優れる。 | EVAはEVOHの前駆体として用いられるが、酸素バリア性はEVOHほど高くない。EVAは柔軟材料、EVOHはバリア材料である。 |
| ポリビニルアルコール(PVA) | 水酸基を多く持ち、乾燥状態で高いガスバリア性を示す。 | PVAは水溶性または水に弱いグレードが多い。EVOHはエチレン単位を導入することで熱可塑成形性と耐水性を改善している。 |
| ポリアミド(PA) | 機械強度、耐摩耗性、耐油性に優れる。酸素バリア性も比較的良好である。 | PAは構造部材にも使いやすいが、EVOHほどの酸素バリア性は得にくい。吸湿による物性変化は両者で注意が必要である。 |
| ポリエチレンテレフタレート(PET) | 透明性、剛性、耐熱性、ボトル成形性に優れる。 | PETはボトル・フィルム基材として優れるが、酸素バリア性をさらに高める場合にEVOHとの多層化が検討される。 |
| ポリエチレン(PE) | 防湿性、柔軟性、ヒートシール性、耐薬品性に優れる。 | PEは水蒸気バリアとシール層に適するが、酸素バリア性は低い。EVOHと組み合わせることで酸素と水蒸気の役割分担ができる。 |
| ポリプロピレン(PP) | 軽量、耐熱性、耐薬品性、成形性に優れる。 | PPは容器・フィルム基材として優れるが、酸素バリア性は限定的である。EVOHを中間層にすることでバリア包装に適用できる。 |
| ポリ塩化ビニリデン(PVDC) | 酸素・水蒸気バリア性に優れる塩素系バリア材料である。 | PVDCは防湿性も比較的高いが、塩素含有や環境対応面で制約を受ける場合がある。EVOHは非塩素系の高酸素バリア材料として使われる。 |
| ポリフッ化ビニリデン(PVDF) | 耐薬品性、耐候性、耐熱性に優れるフッ素系樹脂である。 | PVDFは耐薬品構造材料として優れるが、EVOHは酸素・香気・燃料透過バリア層として選定されることが多い。 |
代表的なメーカー
| メーカー | 代表製品・ブランド | 概要 |
|---|---|---|
| 株式会社クラレ | EVAL | EVOH樹脂の主要メーカーであり、食品包装、燃料タンク、チューブ、フィルムなど幅広いバリア用途に展開している。 |
| 三菱ケミカルグループ | SoarnoL | EVOH樹脂の代表的メーカーであり、食品包装、燃料容器、薬品容器、多層フィルム用途に展開している。 |
| Chang Chun Petrochemical | EVASIN | EVOH樹脂を展開する海外メーカーの代表例である。包装、バリアフィルム、容器用途で使用される。 |
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